046
「お前ら、待たせたようだな。もう狩ってきたのか?」
振り返ると支部長が立っていた。丁度出先から戻ってきたらしい。ルヴィが会釈している。
「いや、まだだ。確認したいことがあるから切り上げてきた」
「なんだ、片付いたのかと思ったが……まぁいい。飯は食い終わってるな。ついてこい」
支部長室に入ると、副支部長のリスカが待っていた。
「あ、支部長お戻りで……もう討伐したのですか!?」
俺達の姿を見るなり尋ねてきた。昨日は信用無い感じだったが、特記事項とやらを読んで少しは信じる気になったのか?
「いや、違うようだ。なんでも、わかんねぇことがあるから確認に来たそうだ。で、どうした?」
「昨日の生き残りは確かにオルトロスを見たのか? 証言を基にした範囲からは離れていたが、確かに四人分の血痕や遺留品を見つけた。だが、オルトロスが暴れたにしては綺麗すぎるんだ」
「綺麗すぎる……ですか?」
「俺が見たオルトロスの大きさで、それが冒険者と戦ったなら、もっと周囲の木々が傷ついていないと不自然なんだ。下草にも地面にも、それらしい痕跡は見当たらなかった」
「ルヴィもそう感じたか?」
話を振られるとは思っていなかったのか、ルヴィが少し慌てている。
「っ! はい。乗っていた馬車はめちゃくちゃでしたし、周りの木も傷ついているのを見ました。それが街道より狭い場所で見当たらないのはおかしいと感じました」
「ふむ……つまり、虚偽の報告……そう言いたいのか?」
「その可能性があると思う。理由は分からないが」
支部長は眉間に深く皺をつくり、考え始めたようだ。恐らく、考えるのは得意じゃないだろう。分からなくなって直接聞いてしまうくらいだし。
「一つ心当たりがあります」
「リスカ、言ってみろ」
「支部長も知っているはずなんですが……少し前にギルド職員向け定期発行誌に載っていたんです。メンバーの負傷や死亡、依頼の失敗でギルドからの評価を落とさないために、イレギュラーな外的要因をでっちあげて誤魔化す手口が」
なるほど。確かに、あまりにも解決困難な事態に遭遇した場合は考慮されるみたいだしな。それどころか、その情報を持ち帰ることで評価されることもあるようだ。
「あの、以前からは、そういったことは無かったのですか?」
「いえ、昔はありました。ですが、事が露見した場合に厳しい罰則、除籍や罰金などを科すようにしてからは殆ど起きていません。それが久しぶりに起こったものですから、記事になったようです」
「その線が有力だな」
「みてぇだな。リスカ、明日、朝一でここに連れてこい。もう一度話を聞く」
「承りました。そのように手配致します」
無駄足だった可能性が高いな。本当に虚偽報告だったら支部長に頼んで一発殴らせてもらおう。恨みのこもったルヴィの拳は痛いだろうな。
「俺達はどうすればいい? 一応、捜すか?」
「いや、お前らも朝はギルドに来い。一緒に話を聞いてもらう。そのほうがどちらにしても納得できるだろう?」
「わかった。あぁ、遺留品はどうする?」
「そうだな、マイヤーに渡してくれ。あいつなら、何か不自然なところがあれば気付くだろう」
「マイヤーさんは目利きだからな。そうしておく。もう帰っていいのか?」
「構わん。御苦労だったな」
全く。本当にご苦労だよ。さすがにオルトロスを捜しながらルヴィの訓練するわけにはいかなかったしな。本当に頼み込んでみようか……死なない程度ならOKくれそうだしな。
支部長室を辞して治療室の前に来ると、薬草の束が山となっていた。これから薬を作るのだろうが、かなりの量だ。マルシアが疲れるのも納得だな。
「凄い量ですね。マルちゃん大変そうです」
「だな。負担かけないように、体調崩さないようにしないとな」
「は、はい!」
何の気なしに言ったが……赤くなっているとこを見るに、今日も手をつなごうという意味でとられたかな。まぁ、どちらかと言えば嬉しいんだが……明日も寝不足にならないか心配だ。明日も早いぞ?




