042
途中でばて始めたミコちゃんを置き去りにして支部長室まで急いだ。
「入れ」
相変わらずノックいらずだ。
部屋に入ると、支部長とエルフの女性がいた。ミコちゃんと同じ制服を着ているから受付か事務かと思ったが見たことがない。
「急に呼び出して悪かったな。だからその不機嫌な顔ひっこめろ」
見ればルヴィも不機嫌な表情をしている。今日は珍しいものがよく見られる日だな。
「飲んでる途中で呼び出されれば誰だって不機嫌になるだろ。」
「まぁそういうな。そのまま敬語じゃなくていいから座って話を聞け。しかし思ったより早かったな。ミコに頼んで正解だった。そういえばミコはどうした?」
「おいてきた。それより早く本題に入れ。俺もルヴィも早く戻りたいんだよ。」
「支部長。何故この方たちをお呼びになったのですか? 見ればわかると仰いましたが、よくわかりません」
エルフさん。はやく飯の続きに戻りたいんだよ。オーヘンさんに勝手につけちゃったし、店閉まる前に戻って付けを無しにしたいんだよ。
「わからないか? まぁいい。話聞いてればわかる。あぁ、こいつは副支部長のリスカだ。」
「副し」
「で、本題は?」
挨拶しようとしたリスカをどうでもいいとばかりに遮ったせいで顔が引きつっている。
「オルトロスが出た。街に来ると厄介だから狩ってこい。」
「支部長! 無茶です! まだBランクになったばかりなんですよ!?」
「書類は最後まで読め。特記事項がある。」
オルトロス? あの双頭が出たくらいで? 彼女の言うように、もっと上のランクの奴を集めるべきだろ。
「そんなことで呼びつけるな。まだ注文したもん全部食ってなかったんだぞ? 常連共を驚かせられなくなったんだぞ!? なあ、ルヴィ?」
「はい。あのまま私たちが食べきれると証明したかったのに……屈辱です!」
なんだ? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔して。食事の邪魔されたんだぞ? これぐらい怒るのが普通だろ。常連に侮られたままなのも気に入らないし。さすがに緊急事態なら気にしないが……オルトロスか。襲われていたルヴィですら気にしていないのに緊急性があるのか?
「お、落ち着け。お前らの食とオルトロスに対する認識はわかった。悪かったから怒るな」
「……なんで俺よりランク高い奴を呼ばないんだ?」
「オルトロスを狩った経験のあるパーティーがいま留守だ。ナークのとこもな。お前よりランクが高い奴らはいるが、経験がない。それなら、ランクが低くても無傷でオルトロスを狩ったお前に頼むほうがいいと思ってな」
「それで謹慎になった気がするんだが、違ったか?」
正直、ルヴィにとって良い経験になるから受けるつもりだし、謹慎にされたこともどうでもいい。だが、食事を切り上げさせられた挙句、明日にならなきゃ動けない案件を聞かされたことで、ルヴィ共々かなり機嫌が悪い。これぐらいは言わせてもらおうじゃないか。
「確かにそうだ。正直、あの謹慎処分は必要ないものだったんだよ」
「どういうことですか!? 受ける必要のない処分をご主人様に下したのですか!?」
「落ち着け。人命も救った上に無傷。厳重注意で済ませてよかったんだが、登録したばかりのルーキーがそこまで出来るのは異常だったんだよ。だから謹慎処分を言い渡して反応を見たかったし、謹慎中に調べたかったんだ」
「支部長、そんなことを……」
「リスカは今日王都から帰ってきたばかりだから関係ない。だから責めるなよ」
ルヴィが今にも立ち上がりそうだったので、肩を軽くたたいてなだめる。これだけで冷静になれたのか、体から力が抜けたようだ。
「そんなことはしないさ。で、反応を見て、調べて、何かわかったのか?」
支部長は苦り切った顔をしている。これは貴重な表情らしく、リスカが驚いた表情で支部長を見ている。
「チッ、何もわからなかった。それどころか、余計に分からなくなった。満足したか?」
「大いに」




