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山のようなサイコロステーキとベーコンを肴に、まずはここに来た経緯を過不足なく、ありのままにルヴィに話した。反応は実に素直なもので、疑うこともせずに単純に心配してくれた。
「それでお部屋に椅子が二つあったんですね。一つだけ綺麗な椅子だったので、なんでかな?と思っていましたが納得しました」
「あれのせいでギルドに初めて行った時は笑い者だった……」
「大変でしたね……その、ご主人様はお国に帰られるのですよね?」
俺の国には奴隷制度は無いことを伝えてあるため、自分がどうなるか不安なのだろう。だいぶルヴィのことは気に入っているし、そばに置いておきたいとも思っているが、こっそり連れて帰るよりは解放して独り立ちさせたほうがいいだろう。そのうえでついてくるか確認しよう。もう暫くは俺が保護することの出来る立場でいてもらうが。
「そうだな。いつになるかは分からないけど、そうするつもりだ。ルヴィが一人で十分に暮らしていける環境を整えたら解放するから、心配しなくても大丈夫だ。そのあとど」
「嫌です! ご主人様にはまだ何もご恩を返せていません! 足手纏いにはなりませんから、どうか、どうか捨てないでください……グスッ」
もしかしなくても泣いてる? もとから捨てるつもりは無かったし、話を途中で遮られたんだが……泣きながら上目遣いは罪悪感が尋常じゃない。
「お待たせ! お兄さん、女の子泣かせちゃダメだよ! おかわりは?」
「グスッ、お願いします……」
追加注文するくらいだから結構余裕なのかと思いきや、おすすめの二品目焼き鳥盛り合わせ(目算100本以上)を前にしても、目もくれない。まずいな。
「ルヴィ。勘違いするな。ルヴィを捨てるなんてことはしない。さっき言いかけたんだが、解放された後に俺についてきても、ついてこなくてもルヴィの自由だ。わかったか?」
「グスッ、はい。は、早とちりしてしまいました。すみません。私は、ご主人様について行ってもいいのですね……よかったぁ……あ、でも解放するのは決まっているのですか?」
「そのつもりだけど?」
「そう、ですか……」
もしかして解放されるのも嫌なんだろうか。左手の奴隷紋を惜しむように撫でている。このしぐさはたまに見かけるんだが……
「はい! おかわりだよ! 」
「?……あ、あの」
「さっき自分で頼んでたぞ?」
「え!? も、申し訳ありません! わ、私勝手に……」
無意識で頼んでたのかよ……でも、これで少し場がなごんだ。店員と客の視線が突き刺さってきたからな。
「いいよ、気にしなくて。俺のも空きそうなとこだったから」
「うぅ、ありがとうございます。」
大きいルヴィが小さくなっている。あ、ルヴィの上目遣いって珍しいな。いつも見下ろされてばかりだし。
「他に聞きたいことは?」
「えと、やっぱり以前も冒険者をしてらしたんですか?」
「そう。冒険者じゃなくて、ハンターって呼ばれてたけど、やってることは変わりないな。トップクラスだったせいで指名依頼の毎日で……休みはほとんど無かったな……」
「やっぱり凄い冒険者だったんですね! さすがです! でもお休みがないのは大変ですね。」
「明日も、休みにしようか」
「あ! いた! シラヌイさん!!」
急な呼びかけに入口を見てみると、肩で息をするミコちゃんが立っていた。ロングスカートにジャケットの制服姿のままだ。ツカツカとこちらに歩いてきている。
「シラヌイさん! ルヴィちゃんも早く! 早く来てください! 支部長が呼んでます!」
「俺たち何もしてないよな?」
「はい。最近は大人しくしていますし。」
「そうじゃないんです! なんでもいいからすぐ来て下さい! 早く!」
あまりにも必死なので渋々立ち上がると、ルヴィともども腕を引っ張られた。
「お兄さん! お代!」
「オーヘンさんに付けておいて!」
ミコちゃんは店を出るとすぐに走り始めたのでついていく。
オーヘンさん、後で清算するから許して。




