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隠れることはせず、ルヴィと共に身体強化なしに普通に走って窪地へと進む。
ルヴィの進路上にいたゴブリンがこちらに気付き、仲間に知らせるためかギャアギャアとわめき始めた。勇敢なことに、その場に留まりルヴィへ攻撃の姿勢を見せたゴブリンは、容赦なく振るわれたハンマーによって吹き飛ばされた。まるで砲弾の様に飛ばされた哀れなゴブリンは自らの暮らす家に向かって飛んでいき、バキバキと音をたてて突っ込んだ。
「いいコントロールだ!」
「次も狙っていきます」
潰れた家から命からがら脱出してきたゴブリン達は、ルヴィが宣言した通りに次々と他の家に突っ込んでいった。窪地にあったゴミ山はその高さを低くし、地面にへばりついている。幸運にも押し潰されずにそこから逃げ出すことが出来た大多数のゴブリンは叩き潰され、打ち上げられ、吹き飛ばされていった。残りは全て死神の鎌によって首を、胴を、一振りで断ち切られた。
「ルヴィにゴブリンの相手は役不足だったな」
「いえ、まだこれからですから分かりません。そうであっても感覚をつかむには最適かと」
「なら、よかった。数が増えてきたら大振りは控えろ」
「かしこまりました」
洞窟へと目を向けると、騒ぎを聞きつけやってきたゴブリン達が驚愕の色を顔に浮かべるところだった。広場にいた連中と違い、今出てきた奴らは手に手に棍棒やナイフなどの武器を持っている。
少しの戸惑いを見せたゴブリン達だったが、動かずにじっと立っている2人の人間に向けて突撃を始めた。しかしリーチの差で近づくそばから薙ぎ払われていく。次々と洞窟からはゴブリンが湧き出してくるが戦力の逐次投入にしかならず、唯一の利点である数の多さを生かすことが出来ずに死んでいく。
「まだまだ中にいるようですね」
ルヴィは手を止めることなくゴブリン達を右に左にさばいていく。ハンマーで弾き飛ばされるため、ゴブリン達は死体が重なり戦場にあふれることで行動の阻害を狙うことも叶わない。ただただ狩られ続け、その数は100を超えようとしていた。
グギャギャ!
普通のゴブリンより一回り以上大きく、冒険者から奪ったのか、まともな片手剣を持った一体が洞窟から姿を現した。その途端、恐慌状態に陥りかけていたゴブリン達が落ち着きを取り戻し始めた。
「あれは……ゴブリンコマンダー、ですか」
「恐らく、そうだろう。他とは数段強さが違うらしい。ルヴィはあいつに専念しろ。他は受け持つ」
「お願い致します」
最大の脅威と認識したのか、それとも近くにいたからか、ゴブリンコマンダーは真っ直ぐにルヴィへと向かってくる。
ルヴィが囲まれるのを防ぐため、ゴブリンコマンダーに率いられるゴブリン達の間に割って入り引き剥がす為に気配を断ち移動する。最右翼にいたゴブリンに、身体強化をしたうえで蹴りを叩き込み、先程のルヴィの様に弾き飛ばし、ゴブリンコマンダーに続く集団の意識をこちらに向けさせる。
「少し付き合え」
サンダーレディエイションの実戦使用試験のために烏羽をしまい、ナイフに持ち替え、両手足に雷を纏う。時折バチバチと音を立てる雷を帯びた拳を、脚をゴブリン達に叩き込んでいく。少し触れるだけで全身を痙攣させバタバタと倒れ伏していく。間合いには入ってしまうが、いかんせん遅すぎるため先をとれる。そのため躱すこともほとんどない。ルヴィを気にかけながら只管に処理をしていくだけだ。
このままでも十分に虐殺と呼べたが、持っているナイフに雷を纏わせることが出来ることに気付いてからはひどかった。得物を烏羽にスイッチしてからはリーチが伸び、ゴブリン達はただでさえ絶望的だった攻撃を当てることが輪をかけて絶望的になった。ゴブリンコマンダーの出陣で持ち直した士気も窪地に肉が焦げた臭いが立ち込め始めると同時に急降下し、我先にと逃げ始めるゴブリンが出始めた。しかし、雷に塞がれ、飛来する矢に阻まれ、魔術にさらされ、或は二振りの剣に押し留められ、逃げた先は彼らを地獄へ送る道でしかなかった。




