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その後、何度か魔獣の襲撃を受けたが問題なく処理していった。
「……足跡」
「ゴブリンのものみたいですね。皆さん、痕跡が見つかりました!」
追跡術の心得もあるところが増々狩人らしさを感じさせる。ロイグに聞いてみたいが、会話になるのか不明だ。道中もほとんど喋っていないし。
弓師のロイグを先頭にして痕跡をたどっていく。ここから先はゴブリンのテリトリーに入っていくため、余計な音を立てずに警戒しながらだ。ルヴィは戦闘モードになっているらしく顔から表情が抜け落ちている。ナーク達も先程までとは打って変わって真剣な表情だ。
時折聞こえる鳥のさえずりや木々の葉擦れの音の中を進むこと暫く、先頭のロイグが手を上げ、停止の指示を出した。微かに動物のような臭いが流れてくる。
「……100m先ゴブリン2体」
「巣からの歩哨か。巣はこの先か」
「……巣は200m弱先」
「周りに他のがいなければロイグ、やってちょうだい」
周囲に他のゴブリンがいないことを確認したロイグが黙って頷くと弓を構える。微かにキリキリと音を立てて弦を引き絞っていく。風がやんだ一瞬、ヒュッと空気を裂いて矢が放たれ、ゴブリンの首を穿った。ゴブリンは悲鳴を上げることも出来ずにくずおれた。もう一体が仲間の異常に気が付いたと同時、自らの首に矢が刺さったことにも気付きもがく。
「ロイグさん素晴らしい腕前ですね。敬嘆致しました」
「そりゃそうだ。ロイグはシラン一の弓師だからな」
ルヴィが感心するのもわかる。素晴らしい腕前だ。正確に狙いをつけて時を待つ落ち着きと、機会を逃さず即放てる決断力、どちらも弓師には必須技能だが、実際に兼ね備え、なおかつ高レベルにある人間はそうそういるものではない。
「シラヌイ、こっから先は任せていいんだな?」
「あぁ。ルヴィのカバーは俺がするから気にしなくていい。殺り残した奴を片付けていってほしい」
「あら、自分の援護はいらないの? 自信たっぷりね」
「俺の実力を見たいんだろ? それに怪我しても腕の良い治療師もいるんだし、問題ないだろ?」
「言ってくれるわね。わかったわ。私たちは基本的に後から逃げ出しそうな奴を相手するわ」
「頼む。ルヴィ、行くぞ」
「はい」
ルヴィを伴って先頭になり、ゴブリンの巣へと近づいていく。他に歩哨のようなゴブリンは見つからない。少しして巣が見えるところまで出た。ゴブリン達は10m程の崖下の開けた窪地と洞窟を巣にしていた。大半のゴブリンは洞窟の中に暮しているようで、窪地には木や葉で作ったゴミの山のような小さな家が5軒しかない。特に警戒はしていないようで、手に武器となるような物は持たずにフラフラと歩き回っている。
「洞窟が本命でしょうか」
「そうだな。中にどれだけいるか分からないから、洞窟には入らずに外で殲滅するぞ」
「かしこまりました」
外にいるのは一般的なゴブリン(大人の腰ほどの背の高さで緑色の小人)しか見受けられない。洞窟の中には上位種のゴブリンリーダーなどがいるかもしれないが、少し強いゴブリンが増えるだけで何も問題ない。さすがにゴブリンキングクラスだとルヴィには荷が重いだろうから、俺が出ていくが。
「身体強化の制限もなしだ。むしろ使っていけ。魔力使用ペース配分の練習になる」
「はい。半分以上は魔力を残して終えたいと思います」
やや後方にいるナークとペシェを見る。2人もこちらを見ており、眼を合わせると一つ頷き、これから仕掛けることを伝える。隣のルヴィには声だけを掛ける。
「さぁ、狩りを始めよう」




