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治療師のペシェが後ろから全体の指揮、前衛のナークとマーティンが左右に別れ先頭の一頭ずつを、中央の三頭はロッカとロイグが対処するようだ。
前衛が接敵する前にロイグが二本の矢を放つ。中央左右のグレーウルフを牽制し、最後尾のグレーウルフの方へと移動させた。
「アースニードル!」
そこへロッカの土系統魔術が撃ち込まれる。
グレーウルフに向かって魔力の線が土の上を走り伸びていく。到達する寸前に感づいたのか、グレーウルフ達が回避しようとしたが、直後、地面から6本の土槍が生え、三体とも体を刺し貫かれ動かなくなった。
そのころには前衛の2人が、ナークは一刀のもとに切り捨て、マーティンは盾で弾き留めを刺していた。
「皆さん凄いですね。私も早くご主人様に合わせて頂くのではなく、合わせられるようになりたいです」
「人数が多いと楽でいいな。ルヴィ、後衛の2人の連携を覚えておけ。魔術を使った連携の良い手本だ」
「はい。しっかりと覚えておきます」
ナークが仕留めたグレーウルフを袋に入れ、回収している。明らかに入りきらないとしか思えないサイズのそれは魔術付与道具と言い、俺の使っているインベントリの付与がなされている。ちっぽけなその袋一枚で金貨2、3枚するそうだ。容量はオルトロス一体分程度とのこと。
「ま、グレーウルフ程度だとこんなもんだな」
「あまり参考にはならないですよね」
「私とロイグはそれっぽいことしたから、大丈夫でしょ!」
「はい。とても参考になりました。ロッカさんとロイグさんのように動けるようになりたいです」
スペイサイドの本気をみたいなら、オルトロスのような大物かゴブリンの集団でないとだめだろう。だが、この一戦で彼らの強さは大体わかった。明確な指示がなくとも各人が自分のなすべきことを把握し連携がとれている。無駄な動きもほとんどなく、相手にあった力の使い方で無駄な消耗を避けている。
「ん? ルヴィ。右から追加だ。実力見せるにはちょうどいいだろう」
「かしこまりました」
「あれ、ホントだ。なんか来てる。ルヴィちゃんがやるって~」
「お手並み拝見だな」
少しして、茂みからサーベルドッグが飛び出してきた。こちらが大人数にも関わらず止まることなく待ち構えているルヴィに突っ込んでいく。
「普通よりも大きいですけど、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ。むしろ大きい方がルヴィにはやりやすい」
ルヴィは背中のハンマーを体で隠すように構え、サーベルドッグが距離を詰めてくる様子をじっと見ている。
「……冷静だ」
「そうね。感心しちゃうわ」
「フッッ!」
ボグシャァ
サーベルドッグがすれ違いざまにルヴィを斬りつけようとした瞬間、眼にも止まらぬ速さで振りぬかれたハンマーが鼻っ柱に直撃した。嫌な音をたてて飛んでいくと木にぶち当たり、更に嫌な音を響かせた。
「おい……あれ」
「す、すごいですね」
「きょ、きょうれつだねー」
「なんだか、魔獣がかわいそうね……」
「…………片手だった」
ルヴィがすました顔で、ぐしゃぐしゃになったサーベルドッグを引き摺って戻ってきた。それにしても、優し気な美人が真顔で潰れた何かを引き摺っている画はかなりくるものがある。子供が見たら暫くひとりでは眠れなくなること間違いなしだ。この中だとロッカあたりかな。
「御主人様、回収お願い致します。実力のほどは伝わりましたでしょうか?」
「十分だろう。インパクト重視でハンマーにしたのか?」
「はい。烏扇では印象が薄いと判断したため、ハンマーに致しました。対象も幾らか大き目でしたので丁度いいと思いまして」
少し離れたところにナーク達が集まって何やら話している。
「僕、絶対、勝てません」
「身体強化してたけど、全然本気じゃなさそうだったよ~」
「彼女、雰囲気変わりすぎじゃない? もっと優しい感じでいい娘な印象が」
「……女は化ける」
「聞いたか? 印象が薄いからハンマーだとよ。腰の斧でも十分だろ!」




