032
「ごちそうさまでした、シラヌイさん!」
「いや、迷惑かけたからね。ごめんね。仕事増やしちゃって」
「ごめんなさい、マルちゃん」
「いいんですよ。ルヴィエールさんに悪さしようなんておバカさんはボコボコにされて当然です! それじゃ、治療室にもどりますー」
事の起こりを説明すると可愛らしく怒り、激甘コーヒーを呷って手をフリフリ戻っていった。
「ねぇ、そこ座ってもいい?」
隣のテーブルで人を待っている風の女性だった。160cm程の身長でくせっ毛の金髪が似合う活発そうな女性だ。緑色のローブを身に纏い、片手には彼女の身長程の杖を持っている。何度かナークと一緒にいるのを見たことがある。
「かまいませんよ」
「ふふ。ありがとう! でもそんな固い口調じゃなくていいよ」
「そうか、じゃあ、これで」
「私はナークのパーティーで魔術師やってるロッカだよ。君がナークを一発でのしちゃった期待のルーキーでしょ?」
「期待されているかは知らないが、シラヌイだ」
「私はご主人様の奴隷のルヴィエールと申します。よろしくお願いします」
ナークのパーティーメンバーだったか。5人くらいで集まって依頼受注処理しているのを何度か見たことがあるから、ナークを除いてあと3人いるのかな?
「うんうん、よろしくね~。それにしても、やっぱりさっきのは強化無しだったんだね。魔力の流れを感じなかったから、そうだとは思ってたんだけど全力っぽくもなかったから確信は持てなかったんだよね」
チンピラどもに魔力の流れが見えてれば余計な疑いなしで済んだんだけどな。
「ロッカさんも魔力の流れが見えるのですね! 凄いです!」
「まぁね~。ルヴィエールちゃんも見えるの?」
「いえ、見えるのはご主人様です。それと、ルヴィとお呼びください」
「うん、わかった。いや~てっきり前衛型だと思ってたけど、魔術師だったの?」
「いや、前衛だ。魔術も基礎的なものしかまだ使えない」
「それなのに魔力の流れとか見えてるの!? うわぁ~ズルくない? ずっと魔術師として鍛錬してきて見えるようになったのに、前衛もできて魔力も見えるって羨ましい~」
薄々感づいてはいたが、魔力は普通は見えないものらしい。そういえば、ルヴィに見えると言った時に驚いていたような……そういうことだったのか。
「ズルいと言われても困るんだが」
「だってズルいよ~。必死に隠せば発動タイミングとか魔術の種類バレないかもしれないけど、そんなこと出来る魔術師はそうそういないし、ホント、魔術師殺しだよ~」
少し話して居ると、ロッカの後ろから見慣れた筋肉ヒゲオヤジが歩いてくる。
「ロッカ! 待たせた。ん? シラヌイとルヴィじゃねぇか、どうしたんだ?」
「あ! ナーク! ルヴィちゃんが凄かったんだよ! パンチ一発で雑魚を10mくらい吹っ飛ばしたんだよ! 無強化で!」
「あぁ、転がってるのはそれか。そんなに力強かったんだな」
「お恥ずかしいです……」
ルヴィは力を褒められることは苦手らしく照れくさそうに、しかしどこか苦々しげにしている。
「さっき受付で聞いたんだが、ゴブリンの巣の駆除依頼受けたんだろ? 俺らのパーティーと合同で受けないか? まだ他のパーティーと一緒にやったことないなら、いい機会になると思うぜ」
「……確かに俺以外の奴との動き方とかも教えていかないといけないしな。どうだ?」
「はい、良い経験になるかと思います」
「じゃ、決まりだな。お前たちの実力を見てみたいと思ってたんだよ。明日の朝一に門集合でいいか?」
「ああ」
「やったーついにナークをのした実力を見れるんだね!」
「おい! のしたってのは余計だ!」
思いがけずナークのパーティーと合同で受けることになったが、これも必要な経験だ。ルヴィにとって良い経験になるのは間違いないだろう。他の冒険者のレベルも見れるし、ロッカの動き方を見て魔術使用時の参考にさせてもらおう。




