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昼過ぎの時間帯なのでギルドホールにはやはり人が少ない。掲示板をじっくり見てどんな依頼を受けるか考えるには丁度いい。
「下限CかBで対多数戦闘ができるやつを探そう」
「はい……これはどうですか?」
「ん、どれ」
下限Bでゴブリンの巣駆除依頼か。下限がCじゃないってことは、それなりに規模の大きい巣なんだろう。ゴブリン単体ではDランクにも満たない程度だが、奴らは武器を使ってくるし集団での狩りを基本にしているから、巣の駆除となるとランクが高くないと対処しきれなくなるらしいからな。ルヴィの殲滅力を試すには良い依頼だろう。報酬もそこそこだし、身体強化すれば日帰りの範囲内だから、野営もしなくてよさそうだ。
「いいんじゃないか? 期限も余裕があるし、今日のうちに受注して朝一で行こうか」
「そうしましょう。一度に沢山を相手取るのは初めてですが、少し楽しみです」
「おいおい、お前ら2人だけでそれ受ける気かぁ~?」
「やめとけって、ケガするだけだぜぇ。折角の美人がもったいない」
「確かに美人だけどよぉ、お前、こんなデカい女に興味あったのかよー」
「ぎゃはは、抱けりゃなんでもいいんじゃねーの? 俺らと遊ぼーぜぇ、でっかい姉ちゃん」
なんだこいつ等? そろいもそろってチンピラみたいな恰好と言葉遣いしやがって。あまり他の冒険者との付き合いは無いが、見ない顔だから他所から来たやつらか。しかし許せんな。ルヴィが気にする事をずけずけと。あまつさえ俺を無視して俺の物に手を出そうとは……。
「ルヴィ。どうだ?」
「お、兄ちゃん話わかるじゃん! 明日には返すぜ?」
「余裕だと思います」
こういう事もあるので、ルヴィにはなるべく他の冒険者を見て実力を判断するように言い聞かせてきた。最初は俺と答え合わせをしても外す事が多かったが、最近はルヴィ自身の実力が上がったために大体の相手の力を把握出来るようになってきている。そのおかげで、相手は4人とこちらよりも多いが、ルヴィはいたって冷静だ。敵の力が分かれば対策も立てられるからな。
「正解だ。取りあえず、一人潰せ」
「畏まりました。御主人様」
「おいおい、何言っちゃってんのォッッ……」
ルヴィは滑らかな動作でチンピラその1に近づくと身を屈め、容赦無く腹部を打ち抜いた。
全く反応できずに5m吹っ飛び、更に3m地面を転がっていき併設された酒場の机にぶつかって止まった。
「て、てめぇ、ギ、ギルドの中で魔術はご法度だろうが! ふざけやがって!!」
「身体強化は使っておりませんが?」
「う、嘘ついてんじゃぁねぇぞ! このアマぁ!」
チンピラその2、その3が怒りで直線的になった緩慢な動作でナイフを抜き、ルヴィに向かっていく。
「武器はいいのか? あとでミコちゃんかカティさんにでも聞いてみようかな」
「それがよろしいかと存じます」
答えながらルヴィは、チンピラその2のナイフを持った手を甲で逸らし、ガラ空きになったボディに左フックを叩き込む。
空へ舞い上がった仲間を見て隙を作ったチンピラその3は肩を殴られ、独楽のように回転して倒れた。
それを見たチンピラその4は震える脚を引き摺って逃げて行ってしまった。
「終わりました。加減はしたのですが、如何でしたでしょうか?」
「相手に恐怖を与えるには徹底的に叩きのめしたほうが良いが、ここまで実力差がある場合はもう少し加減しろ。出来ればあまり力を使わずに気絶させて無力化したほうが良い。まあ、どれも見事に気絶してるようだが」
「御指導有り難う御座います。以後気を付けます」
訓練中や戦闘中はルヴィの言葉遣いが更に固くなり、事務的な感じになる。彼女なりの切り替えなのか、もとからスイッチが入るタイプなのかはわからない。受付にいたカティさんは冷徹な感じのルヴィの変わりようと強さに驚いている。酒場にいた奴らも同じようだ。
「馬鹿な連中だったな」
「はい。相手の力を見抜くことは大切ですね」




