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「シラヌイさんにルヴィちゃんじゃないですか! もう外から帰ってきたんですか?」
声を掛けた結果、周囲にも働きづめで休みを取らないと思われていた事がハッキリした。
「いや、今日は休みだよ」
「……調子悪いんですか? 昨日飲みすぎちゃったとか?」
「ミコちゃん、今日は本当にお休みなんですよ。さっきまでお買い物をしていたんです」
その後、信じてもらうのに時間が掛かった。今は昼がまだだったミコちゃんおススメの店で食事をしている。大通りから一本入ったところにあるその店は、白く塗られたテラスと青い屋根がきれいな新しいところだ。お洒落な外観から分かるように、若い女性に人気のお店らしい。ミコちゃんもダメ元で俺達を連れてきたみたいだが、運よく四人掛けの席が空いて座ることが出来た。
「お待たせしましたー」
運ばれてきたのはミコちゃんのおススメで、この店自慢の逸品。
少々小さめの平皿に盛られたクリームソースのかかったパスタだ。看板メニューだけあって、匂いから美味いことがわかる。
「とっても美味しそうですね!」
「そうだな。ミコちゃん、連れてきてくれてありがとう」
「どういたしましてー。すごい美味しいですから、さ、食べましょう!」
濃厚なクリームソースと絶妙な茹で具合のパスタが絡み合い最高に美味い。
「すみませーん!」
「はい! お茶をお持ちしますか?」
「いえ、これ2皿追加でお願いします。あと、あっちのテーブルで食べているやつも2皿」
「えと、はい、わかりました」
「ご主人様、ありがとうございます!」
味には大いに満足したが、やはり量には満足出来なかったのでルヴィの分も追加で注文した。非常にいい笑顔で感謝された。ルヴィらしいな。
「ま、まだ食べるんですか? ルヴィちゃんも? 2皿も?」
「そ、その、あれぐらいだとお腹いっぱいにはならなくて……」
ミコちゃん、言ってやるな。ルヴィだって少しは気にしてるんだよ。結局、俺がさっきみたいに勝手にルヴィの分も頼むから食べちゃうんだけどな。素直でよろしい。
「あの、本当にご馳走になって良かったんですか?」
「気にしない気にしない。いい店紹介してくれたお礼だから。最近ルヴィも強くなって、安定して稼げてるしね」
「ありがとうございます。 確かに、ルヴィちゃんも結構いい腕だってマイヤーさんが言ってましたからね。ランクアップも早かったですし」
「ミコちゃん! マイヤーさんがそんなこと仰ってたんですか!? 嬉しいです。それもこれも、ご主人様のおかげです。ありがとうございます、ご主人様」
「どういたしまして。ルヴィは飲み込みが早いし、体もしっかり出来てたからな。と言ってもまだまだだ」
「はい! もっと頑張ります!」
種族特性と才能に向上心が相まって伸び続けてるからな。壁はあるだろうが、まだまだ先には行ける。明日から少しやり方を変えてみるか? そろそろ対多数の依頼を受けてみるか。今からギルドに行って依頼の確認を……休みと言ったのに何を考えてるんだ、俺は。
「ご主人様? どうなさいましたか?」
「ん。ごめんごめん。考え事してた」
「ふふ。ギルドへお出でになりますか? そんなお顔をしてらっしゃいますよ?」
「よくわかったね。休みだからと思ったけど、ばれちゃしょうがないし、行こうか」
「はい。そのほうが私達らしいです」
最近ルヴィに表情や考えを読まれることが増えてきた。さすがに意識して隠されるとわからないらしいが、普通にしている時は何となくわかるようになってきたそうだ。ま、俺もある程度はルヴィが何考えてるか分かるようになってきてはいるしな。お互い一緒に過ごしていればこんなもんか。最初は商館に売ることまで考えていたのに、情もわいてるし弟子みたいなもんだしで、すっかりそんな気は無くなっている。それどころか手放すのが惜しいと思い始めている。絆されてるなぁ。