026
ルヴィの服や日用品を買って宿に向かっている。予備も併せて大目に買ったらしきりに恐縮していた。そんなルヴィは今は着替えてかなり見られる格好になった。
足には黒いブーツと丈夫そうな紺の長ズボン。上は全く合うサイズが無かったので男物の白シャツに、これまた男物の灰色のセーターを着ている。セーターはかなり大きかったため腿の半ばまで丈があり、袖は折り返して縫い留めてもらった。どうも職人が注文を間違えて首をかしげつつ作ってしまったらしい。おかげで新品を格安で買えた。因みに今の格好は街用で、これで戦わせる気はない。下は変わらないが。
チリンチリーン
「おかえり。おや、その美人さんは誰だい? さすが男前は手が早いね」
「いやいや、違いますって。彼女は、ルヴィエールは俺の奴隷ですよ」
「わざわざ買わなくても女なんか選べるんじゃないのかい?」
「買ったんじゃなくて拾ったんですよ」
「そうかい」
信じてないな。おばさん分かってるのよ、みたいな顔してるし。
「それで部屋空いてます?」
「今日は満室だよ。それにうちのベッドなら二人で寝られるだろう?」
「ルヴィ。それでいいか?」
「はい。私はどこでも大丈夫です。女将さん、よろしくお願いします」
「よろしくね。2人なら一泊100レルだよ。お湯はオマケしとくよ。2人ともいい客になりそうだからね」
長期間滞在する客は少ないようで、安定してこの先も金を落としそうなのでということらしい。飲み食いでもそれなりに払ってるしな。ずっとオマケしてくれるそうなので、期待に応えて20泊分前払いしておいた。
本日の夕食は魚のフライだ。サクサクとした食感とホロホロの身が美味い。
「ルヴィ。早く食べないと冷めるぞ?」
「私も頂いてよろしいのですか?」
「当たり前だ。奴隷だからとかそんなことは考えなくていい。体面上、俺に敬語使う以外のことは気にしなくていいからな」
「し、しかし……いえ、かしこまりました。それでは、私も頂きます」
押し問答になりかけたが、じっと目を見ていると折れて素直に食べ始めた。商人のところよりは美味しいためか、自然と頬が緩んでいる。普段は大人のお姉さんのような雰囲気だが、こうしていると少女のようなあどけなさを感じる。
「そういえば、ルヴィは何歳なんだ?」
「私は18歳です。半年ほど前になりました。あの、ご主人様は……す、すみません! 失礼なことを」
「だから気にしなくていいって。聴きたいことは聴いていいから」
「はい。すみません、ありがとうございます」
「俺は26ね」
「もう少しお若いのかと思っ、すみません!」
俺に言われたことと奴隷としての教育で板挟みになっているみたいだ。矯正するにはもう暫くかかりそうだな。
「そういうのも気にしなくていい」
「はい。すみません……」
「で、何か食べる? 俺はもう何品か追加するけど。あ、遠慮はするなよ?」
「そ、それでは私も、もう一品……二、三品お願いします」
見詰めると正直になるようだ。しかしルヴィもよく食べるほうみたいだ。
「シスカさん! 適当に二、三品お願いします! 二人前で! あとビールも!」
「はいよ! 待ってな!」
「あ、ルヴィは酒飲める?」
「恐らく、大丈夫だと思いますが……その」
「じゃあ飲もうか」
「は、はい」
こっちから押し切っていったほうがいいな。早いとこ自分を前に出してくれるといいんだけどな。
ルヴィは追加の料理も実に美味しそうに食べていた。その様子にシスカさんもご満悦で、一品オマケしてくれた。
「こんなに沢山食べさせて頂いてありがとうございました。それに、お酒まで頂いて」
「明日からも毎日こんな感じだから。酒は大丈夫そう?」
「はい……えっ、毎日こんなに食べてよろしいのですか!?」
「食べたいだろ? それくらいは稼ぎ続けるつもりだし。で、酒は大丈夫そう?」
「あっ、すみません! お酒は大丈夫です。一杯だけですが酔っている感じもありません」
見た感じだとまだまだ飲めそうだな。ま、一杯でも付き合ってくれれば十分だけど、一緒に楽しめるならそれに越したことはない。美人だからなおさらだ。
「ならよかった。それじゃ、お湯もらって部屋帰って寝ようか」
「は、はい!」




