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022

 馬車を引いていた馬は衝突した際の衝撃で首があらぬ方向に曲がっていた。後の荷台は車輪が外れて無くなっており、幌が破れそこから金属製の檻の様な物が見える。何度か街で見かけた奴隷を運んでいたのか?


 近づいて確認してみると檻の中に1人の若い女性が気を失って倒れている。膝丈の木綿でできた簡素なワンピースのような服を着ている。ショートにした濃いグレーの髪に黒くて丸い熊のような耳が見える。優し気な顔立ちをした美人だ。スタイルも抜群にいい。豊満な胸にくびれたウエスト、スラリと長い真っ白な脚。身長は195程か。いろいろと大きい人だ。


 檻には鍵がかかっているし、彼女は気絶しているだけのようなので放っておいて馬車の前面にまわる。


 こちらの御者も死んでいた。馬と馬車に挟まれたようだ。この男は商人では無く鍵を持っていなかったので回収して次の馬車に向かう。


 木に押し潰された荷台に散乱した商品に埋もれるようにして死んでいる男を見つけた。服装を見るに、こいつが商人らしい。木に挟まれた下半身を引きずり出して懐をあらためると鍵を見つけることができた。あとはこの馬車の御者を回収くらいか。街道の端だから馬車までは回収しなくていいだろう。


 死者9人、生存者1人か。もう少し近いところにいれば助けられたかもしれないが、考えても意味はないことだな。


 鍵か檻が歪んでいないか心配だったが無事に開けることが出来た。ざっと確認したが特に怪我はないようで安心だ。近くに魔獣の気配もないため路肩の草地に寝かせておく。一服している間に起きなければ担いで街まで移動しよう。幸いまだ昼前だ。十分に明るいうちにつける。


 キンッ シュ


「ふぅーー」


 狩りの前や最中には匂いを付けないために吸わないが、今日はもうおしまいだ。知りもしない人の生き死に興味はないが、自分が最期の姿を見た者としてそこにいる場合は違う。心の片隅で追悼をする。そして、死の臭いを纏わないように煙草を吸って上書きする。くだらないジンクスだと思うが、それで今まで生きてこれたのだからいいだろう。


 そういえばシガレットケースの中がまた減っていなかった。今までは全くそんなことは無かったんだが……減らないというならそれでいい。そのうち原因は突き止めたいが、なんの手がかりもないから放っておくしか仕方がない。


「うぅ……ぅ?」


 どうやら起きたみたいだ。煙草をブーツで揉み消して彼女のところへ行く。


「大丈夫か? 身体で動かないところはあるか?」


「っ! だ、だいじょうぶです……たぶん。どこも……うごかないところはありません」

「そうか。立てるか?」

「はい、たてます」


 少々ふらつきながらだったので手を貸してやる。


「あ、ありがとうございます。そ、その、他のひとや魔獣はどうなりましたか?」

「生きてるのは君だけだよ」

「そう……ですか。 あの魔獣も死んだのですかっ!?」

「今は俺のインベントリの中だから心配しなくていい。だけど、他が来ると面倒だから街に移動しよう」

「はい」


 立ち上がった彼女は予想通り195センチはありそうだ。女性相手で上を向いて話すのは初めてだ。


「あのっ! 申し遅れました。私、ルヴィエールと申します! ルヴィとお呼びください。先程は助けて頂き本当にありがとうございました!! このご恩は必ずお返しします!!」

「どういたしまして。俺はシラヌイだ。ま、助けられたのは偶然だからあんまり気にしないでくれ」

「いえ、ご主人様は命の恩人なのです。一生気にしますし、絶対にご恩はお返しします!」

「……奴隷だからか?」


 どこまで本気で言っているのかと、奴隷なのかしっかり確認したかったから聴いてみたが……今にも泣きそうで絶望した顔はやめてくれ。疑った俺が悪かったから。







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