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早速鍛冶屋に向かってみると、錆の浮いた看板が掛かった小さな店だった。
ギィギィと軋む扉を開けた先には幾つかの剣や盾が置かれた小さな棚とカウンターしかない。店主の姿が見えないが、奥から金属を叩く音が聞こえてくる。リズムよく鳴る全く同じ音を聞いていると、ナークが推すだけあって確かに腕が良さそうだ。置いてある武器類もシンプルで実用性を全面に押し出した良品が多い。手に取ってみるとバランスの良さや、刃が均一に鍛えられている事がわかる。だが、特殊な物は無さそうだ。
「お前もそういうのが欲しいのか。そこらのは質は悪くないからな。今持ってるのは500レルだ。買うなら調整してやる」
振り向くとカウンターに店主と思しき男が立っていた。鍛冶仕事で鍛え上げられた身体に黒く汚れた前掛けをした身長160センチ程の男だ。来客だというのにつまらなそうにこちらを見ている。
「勝手に触ってしまってすみません。確かに質は良いですが、これは買いませんよ」
「ふん。じゃ、何が欲しいんだ」
「ここに置いてあるような普通のじゃなく、一癖あるような得物を探しているんですが、ありますか?」
さっきまでの顔とは打って変わって興味深そうにこちらを値踏みし始めた。なんだ? オーソドックスな物をひたすら作り続けている鍛冶屋じゃないのか?
「武器でも冒険してちゃ命が幾つあっても足りなくなるぞ?」
「俺は冒険するつもりはないですよ。ただ楽しみたいだけです」
「楽しみたいか。なら、それを軽く振ってみろ」
向こう見ずな冒険者を止めるような物言いだが、同時にかなり期待も持っているようだ。ホントは変わり種が好きなのかも知れない。剣を振ってみろと言うのは実力があれば紹介してくれるってことかな。
言われるままに軽く剣を縦に横に振っていく。
「ほぉ、口だけじゃないな。いいだろう。お前には冒険する資格がある。ついてこい」
どうやらお眼鏡にかなったらしい。そのままカウンターの奥に消えていった。
ついていった先は店の地下室で、試し斬りをする場所らしく中々の広さだ。壁際には藁人形が何体か置いてある。
「さて、どんなのがいい? 剣か? 斧か? 槍か? ハンマーか? 鎌ってのもあるぞ?」
本当に売りたいのは表に出していない一癖あるような武器らしい。ナークのおかげで、1軒目にして当たりを引いた。あとで酒でも奢ってやるか。
「その中だと……鎌が一番気になりますね」
「鎌か、待ってろ。今持ってくる」
程なくして店主が持ってきたのは、俺の身長程の真っ黒な柄に1m弱の黒い刃が付いた鎌そのものだった。石突きには尖った装飾がなされていて、力を入れて付けば刺さりそうだ。
「武器としては扱い難いし重さもあるが、体幹がしっかりしているお前なら振り回せるだろう」
「お借りします」
長い柄に大きな刃が付いているためバランスはかなり悪いし、斬り付けるのも簡単ではない。だが、軽く体の周りで何度か回していると段々と馴染んできた。その後30分ほど、店主に黙って見守られながら振り回し続けた。
「もう大分使いこなしているが、どうだ? 買わないか?」
「そうですね……俺以外に鎌なんて使ってる酔狂なやつもいないでしょうし、なにより気に入りました。これ、幾らですか?」
「その鎌は烏羽って銘だ。これからもうちを贔屓にしてくれるなら……2500レルでいいぞ」
銀貨25枚か。これだけのものだし、かなり安いだろう。残金は銅貨60枚か。
「わかりました。銀貨25枚です。メンテナンスは全部ここにお願いしますよ。他じゃ扱いきれないかもしれないですしね」
「はっはっ、違いない。メンテナンスはこのオーヘンに任せとけ!」
「ええ。申し遅れましたが、シラヌイです。今後もよろしくお願いします」
「よろしくな! そうだ、烏羽用の吊り具もつけるぜ。それと、しまう時は刃の根元にある刻印に魔力を流してみろ。刃をたたむことが出来る」
しっかりその辺も考えられていたようだ。余談だが、インベントリを使えると伝えると非常に残念そうな顔をし始めたので烏羽はなるべく背負うようにすると言ってしまった。武器さがしの目的の1つが周囲に武器を持っていることをアピールするためだし丁度いいか。
今日は休みにしようと思ったが、ホーンラビットあたりで慣らしをしに行こう。




