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018

 この街で過ごすのも今日で7日目。ギルドへ向かう道もすっかりお馴染みになってきた。最近はできる限り早くギルドに行って込み合う前に依頼を物色しているため、ホールにいる冒険者の数は少ない。


 今日も下限Eランクの依頼で受けたいものは無かったな。今のところ常時依頼しか受けていない。軽くミコちゃんに挨拶でもして出るか、と思っているとミコちゃんがこっちに来るのが見えた。


 やや表情が強張っていて、耳と尻尾もピンとして緊張しているように見える。何かあったのか?


「シラヌイさん、おはようございます」

「おはよう、ミコちゃん。どうかした?」

「どうかした?じゃありませんよ! 支部長がお呼びですからついてきて下さい。逃げちゃダメですよ!」


 そう言って登録時に入った掲示板横の扉に向けて歩き出した。ミコちゃんの中で俺は信用が無いらしく、逃げちゃダメと言われてしまったので大人しくついていく。


 ホールとは真逆の雰囲気の廊下を奥まで進み、階段を昇って3階へ行くと他よりも少々立派な扉の前でミコちゃんが止まった。


 コンコン


「支部長。ミコです。シラヌイさんをお連れしました」


「入れ」


 ミコちゃんに促され支部長室に入る。廊下の雰囲気にあった小奇麗な部屋で、大きな執務机とソファーセットに整頓された本棚が眼に入った。


「適当に座れ」


 文官タイプのひょろい男をイメージしていたが全然違った。50代ほどの筋骨隆々とした歴戦の勇士然とした偉丈夫だ。促されるままにソファーに腰掛けると、蓄えたあごヒゲを撫で、こちらを睨みつつ威圧をしてくる。舐められないように初対面の者にはこうしているのだろうが、並のやつにはかなり厳しいだろう。現に扉の前に立っているミコちゃんは少し震えている。帰してあげればいいのに。


「俺はここ、シラン支部の支部長をやっているボルス・ガードナーだ。早速だが、なぜ呼ばれたかはわかるな?」

「初めまして、シラヌイと申します。理由については、サーベルドッグの件でしょうか?」


 いたって普通に返答されたことに少し驚いたようだが、更に威圧を増して聴いてくる。


「わかっているなら、なぜサーベルドッグを狩りに行った?」

「本来、下限ランクD~Cの依頼に出される魔獣を狩ったことが問題視されているのはわかります。ですが、私は狩りに行ったわけではありません。昨日は運悪く遭遇してしまっただけですよ」


 また威圧が増した。まぁ見え透いた嘘を言われれば怒るよな。ちらとミコちゃんを見ると蹲ってプルプルと震えだしている。可愛い。


「お前は薬草を集めていたら、偶然にも、昨日一日だけで、4頭ものサーベルドッグに出会って無傷で倒して帰ってきたと?」

「ええ、その通りです」

「そのナイフだけでか」


 言い終わると同時、ジャケットの内側に隠したナイフを振りかぶりながら支部長が急接近してくる。やはり武闘派らしく、すさまじく洗練された無駄のない流れるような動作だ。

 目前まで高速で迫ってくるナイフを無言のまま、身じろぎもせずに見つめていると、不意に支部長がバックステップで距離を取った。

 魔力の流れが見えるのか、長年の経験によるものかわからないが、俺がサンダーレディエイションを発動させる直前に気付いたようだ。さすがにこの大きな支部を任されるだけのことはあるようだ。


「雷系統か」

「ええ、あなたと同じで、発動させる気はありませんでしたけどね」

「そこまでわかっていたか。なるほど、威圧しても動じないわけだ。実力は十分か……シラヌイ、下にいってランクの更新をしてこい。今日からCランクだ」

「よろしいのですか? まだ登録して1週間も経っていませんが」

「どの口が言う。さっさとランクを上げたかったんじゃないか? それに、依頼も受けずにEランクのやつが下限ランクCレベルの魔獣を狩ってることが広まると面倒なんだよ。真似して死ぬやつが出かねんし、ギルドの制度を無視されるようになったら目も当てられん」


 思惑通りになったようだ。だが、さすがに昨日4頭も調子に乗って狩ったのはまずかったかな。下手したら除籍されてもおかしくは無い。支部長が武官タイプの理解ある人で良かった。


「ご迷惑をお掛けしました。暫くは下限Cランクまでの依頼で頑張りますよ」

「はぁ、想像以上に問題児だな。だが次に、偶然、上位ランク対象を狩ってきたら何らかの処分を下すからな。暫く大人しくしていろ」

「そのつもりですよ。ですが本当に偶然出会った場合は保証しかねますが」

「ふん。さっさと更新してサーベルドッグでもなんでも狩ってこい」


 この分だとAランクまでは早めに上がれそうだな。稼ぎながらよりは貯めてから一気に帰りたいし、調度いい。


「では、失礼します」

「あぁ、早く行け。それとミコを連れてけ」


 呆れ混じりに言ったところを見ると、ミコちゃんは俺を連れてきた後は戻る手はずだったのだろうが、一緒に入ってしまい出るタイミングを逃して巻き込まれたらしい。涙目で猫耳をへたれさせながら未だに少し震えている。可愛い。動けなさそうなので脇に抱えて支部長室を出た。



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