014
「シラヌイさん!おかえりなさい! お怪我がないようで安心しましたー。」
「……ただいま、ミコちゃん。とってきたものはどうすればいい?」
混む時間を避けて早めに戻ってきたため、すぐに報告が出来た。これからも早めに帰るようにしようかな。
「あ、えっとですね、採ってきた素材はギルドの左隣の倉庫で引き渡してから受付にお願いします、すみませんでした! 本当にすみません! 説明するの忘れてました!」
「そうなのか。わかった。じゃ、引き渡してくるよ」
「すみませんでしたぁー!」
猫耳をへたれさせ猛烈にペコペコしている。すっかり気を抜いていた。今朝気をつけようと思ったばっかりじゃないか。それにしても、心配になるくらいに抜けているな。
倉庫らしきものがあるのは知っていたが、時間帯がずれていたせいか冒険者が戦利品を担ぎこむ場面に出くわさなかったのでわからなかった。巨大なものにも対応するためか入口はかなり広くとられている。
中に入ってみると、壁際の机と椅子の他は何もない広い空間が広がっていた。
「引き渡しか?」
クリップボードを片手に持ち、前掛けをしている筋骨隆々のオッチャンが話しかけてきた。
「どこに出せばいいですか?」
「インベントリ持ちか。便利でいいよな。出すのはこの辺に適当にやってくれ」
纏めればどこに出してもいいようなので今日の成果を並べていく。
「ホーンラビットが20にサーベルドッグが1か。ウサギはどうやって殺した?」
「ほとんどは蹴って。何体かは木に叩き付けて」
「確かに切った後はねえし、骨が折れていて打撲痕もある。イヌは?」
「飛び掛かってきたところを下からナイフで」
「そのナイフか。ちょっと見せてくれ……あぁ、確かにこれで殺ったみたいだな。そんな腕があるなら、わざわざウサギ狩りなんかしなくてもいいだろう」
「いや、昨日登録したばかりでウサギ狩りしか出来ないんですよ。そっちは偶然出てきちゃったんで狩ったんですけど」
刻印を見せながら言うとオッチャンが眼を見開いて固まっている。
「おいおい冗談だろ!? ド新人がサーベルドッグを傷一つなく一撃で倒したってのか!? あ、いや疑ってるわけじゃねえから安心しろ。それぞれの死因も聴いた通りだし、刻印も確認したしな」
死因を確認することで本当に倒したのか判断しているのだろう。それにしても、ナイフをみて断定できるあたり、このオッチャンは相当な鑑定眼を持ったプロのようだ。贔屓にさせてもらおう。
「お前は久しぶりの見込みがありそうな新人だな。俺はマイヤーだ」
「ええ、期待していてください。シラヌイです。よろしくお願いします」
「おう。期待しといてやるから、ケガすんじゃねえぞ? で、これが受領証だ。漏れがないか確認してくれ」
マイヤーのオッチャンが渡してきた葉書サイズの紙には、魔獣名・数量・状態・鑑定担当者名・引き渡し者名が書かれていた。
「間違いありません。ありがとうございました」
「おう、またな」
さて、戻ってもう一度受付か。倉庫が混んでいなかったから、まだ受付も大丈夫だろう。
良かった。ミコちゃんのところが空いてる。
「先ほどはすみませんでした!」
「いいって、別に。ちょっと遠回りしただけだから。それよりも、はい、受領証よろしく」
「うっ、お、お預かりします……え? な、なんで薬草がなくてホーンラビットが20頭も計上されてるんですかっ!? しかもしかもサーベルドッグってなんなんですかぁーーー!!」
想像以上に過剰な反応と騒々しさだった。頼むから止めてくれ。眼鏡が気付く前に。
「ミコちゃん、落ち着こう。ほら、皆こっち見てるしさ」
「う、すみません。で、でも昨日登録したばっかりのEランクの新人がサーベルドッグを倒してくるなんて普通じゃないですよー!」
そう言われても本当のことなんだけどな。困ったな。
「おい、シラヌイ。お前またミコちゃんになんかしたんじゃねぇだろうな?」
「ナークさん! 別にそういうわけじゃないんですけど、薬草とりに行ったのにサーベルドッグ倒して帰ってきたんですよ! おかしいですよね? おかしいですよね?」
「シラヌイ、それは本当か?」
「本当だ。薬草は見つからなかったけどな」
予想はしてたが、薬草も採取出来ない残念な子を見る眼は止めてくれ。実際そうだけど!