013
シランの東門から外に出て20分程歩くと、森の外縁部についた。シランに入ってきた時の門は南門だったようだ。
ここから先は人目も無いので幾らでも魔術の練習ができる。失敗したとこを見られて後で絡まれるのは面倒だからな。
まずはサンダーボールから試していくか。もっとも基本的な雷系統ということだし。
右手を前に真っ直ぐに伸ばして5m程先に転がっている大きめの石に狙いをつけ、少しずつ魔力を集め雷球をイメージする。バチバチという音を立てながら球状の雷が発生し、魔力量に比例して段々と大きくなっていく。挿絵にあった人の頭ほどのサイズで魔力の供給を止めてやると、5秒ほどして消えていった。対象に中てるまでまでしっかりイメージしないといけないようだ。もう一度同じようにしてサンダーボールを発生させ、今度は中てるまでをしっかりとイメージする。サンダーボールは真っ直ぐに石を目掛けて飛んでいくと見事に中り消えていった。標的の石は黒い焦げがついていた。
基礎的な魔術を基本通りに放ったのだからこんなものだろう。しかし本当に出来たな。それも簡単に。昔友人に言われた、魔力量と魔力のコントロールだけは異常という言葉は嘘じゃなかったみたいだ。
次は一番使えそうなサンダーアローをやってみよう。
同じように右手を伸ばし、雷の矢をイメージして魔力を集めていくと、これまた同じようにバチバチと音をたてながら雷の矢が出来た。そのまま石に飛ばすと、サンダーボールの倍の速さで飛んでいった。直径にして十分の一ほどだが早い分、やはり使いやすそうだ。石が少し穿たれ窪んでいるので威力も高そうだ。
問題なく魔術を行使することが出来ることがわかったところで早速ウサギ狩りだ。俺の近く、四時の方向に一体魔獣らしき気配がある。殺気をもってこちらを見ているようなので間違いないだろう。
ガサッ
気付かれていないと見て攻撃に出てきたか。振り返ると、頭から黄色い20cm程の角を生やした全長30cmのウサギが飛び掛かってきていた。眼が血走っていて全然可愛くない。
半身をずらして大して早くもない速度で飛び掛かってくるウサギを回避し、横腹を蹴りつけ木に叩き付けるとバキバキと骨が砕け、動かなくなった。大分前のことだから忘れたが、ルーキーとはこの小動物で大けがをするのか。ナイフどころか無系統魔術すらつかってないぞ? これが金になるなら楽だが、この程度の相手はしたくないな。
確か討伐証明部位は角だったな。毛皮や肉も売れるんだったか。面倒だからインベントリに入れておこう。
直線バカのウサギは飽きたから薬草を探そう。採取なんて久しくやっていなかったし、宝物探しみたいで楽しいしな。
「ない。ないなぁ」
暫く探し回ったが見つからない。見つかるのは突っ込んでくる馬鹿ウサギだけだ。薬草が一株も見つからずにウサギが4羽も出てきた。試しに無系統で身体強化をして、角を掴んで木に向けて放り投げたら案の定死んだ。魔獣と言いつつ、ただのウサギと何も変わらないじゃないか。
?……前からウサギとは別格の気配が近づいてきている。ちょうど開けた場所にいることだし、向こうからこっちに来てくれそうだから待ってみるか。少しは楽しめそうだしな。
「グルルル」
低い唸りをあげながら現れたあれは……サーベルドッグだったか。全長1.5m、全高50cm程の大きさで、両肩から鋭いサーベルのような物を生やした灰色の犬だ。名前こそドッグだが群れることをしないそうで、Cランクはこいつを1人で倒せることが目安になっているらしい。
こちらが何もせずに立っていると、身を低くしながら真っ直ぐに走り始めた。サンダーアローを進行方向目前に放つと勢いを殺さずに軽くステップして躱された。バックステップで下がりながら更に2発打ち込み牽制をする。距離は3m。サーベルドッグの左前脚にギリギリ当たらない場所にサンダーアローを放ってやると、右へのステップを試みようとして大きな石があることに気付き、こちらへ飛び掛かる形で回避した。空中にいるサーベルドッグへ走りより、潜り抜けながら顎下にナイフを突き刺し、相手の勢いを利用して切り裂く。
「跳んだのは間違いだ」
跳ぶようにしたのは俺だが、被弾覚悟で突っ込んできてくれれば面倒になって少しは楽しめたのにな。
顎下から首の付け根までをぱっくりと裂かれ、大量の血を流して死んでいるサーベルドッグをインベントリに放り込んで薬草を探す作業に戻る。