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こちらの『魔術の基礎・全系統網羅版』は大全と違って200ページほどは有りそうなしっかりした本だ。全系統網羅の字は伊達ではないのだろう。今は自分の適性系統だけを調べよう。
最初の方には魔力の感じ方、動かし方が分かりやすく書かれている。要約すると、丹田から心臓を介して全体に回すイメージだ。これが出来れば無系統の身体強化は出来た様な物らしい。ということは俺は知らないうちに無系統魔法を行使していたのかもしれない。魔力の循環はほとんど無意識で常にやっているしな。このまま無系統のページにいくと“先程の魔力の循環を保った状態で強化したい部位を強くイメージして下さい。そして体の動きや力が強くなったら成功です。魔力には限りがあるので、無駄な強化はせずに必要な分だけを心掛けましょう。”という文と、木を蹴り倒す人の絵が書いてあった。無系統のページは1ページだけらしい。基礎だからこれだけでいいということなのか、これしかないのか。
次に雷系統を見てみると、3つしか書かれていない。簡単にまとめると
サンダーボール:手から球状の雷を飛ばして相手を攻撃する魔術。単体にしか使え無さそうだ。
サンダーアロー:手から矢状の雷をとばして相手を攻撃する魔術。サンダーボールより小さいが早い攻撃ができるようだ。これがメインになりそうだな。
サンダーレディエイション:全身から雷を迸らせる無差別範囲攻撃。雷を纏うわけではなく、放出し続けるため燃費が悪く、有効範囲も半径1~2m程度。1人で使う分にはいいが、燃費が悪いのでは微妙だな。囲まれてしまったとき用の緊急脱出攻撃魔法といったところか。
それぞれに魔術発動成功時の絵が幾つか描かれている。挿絵でページを稼ぐタイプの本の様だが、曰く魔術は魔力の循環・コントロール・イメージが重要らしいので仕方がないだろう。因みに、コントロールについては、安全な場所でひたすらに魔術を反復して自分で掴めとしか書かれていなかった。物を教える気は全くないのだろうか。筆者自身の感覚だけでも書けばいいと思うのだが。
最後に空間系統だが、これも、少ない。というか、1つしかない。
インベントリ:目に見えない場所に物をしまったり、取り出したりできる魔術。最大魔力量によって容量が変わる。生物は入れられない。商人や冒険者には有り難い魔術だが、それ故に適性者は少なく5000人に1人程らしい。
これはかなり便利だ。しかし適性者でも、見えない別の空間をイメージすることが難しくて使えない事があるようだ。
この魔術ならここで練習しても問題なさそうだな。やってみるか。
『魔術の基礎・全系統網羅版』を片手に持ち、じっと眼をつぶり集中する。どこかに急に消えてなくなることをイメージしつつ魔力を手に集めていく……手にかかる重さがフッと消えてなくなる。眼を開けると『魔術の基礎・全系統網羅版』はなくなっていた。少々時間がかかったが1発で出来れば上出来だろう。家が消えた時の経験が思わぬ形で生かされたのだろう。悪いことばっかりじゃなかったみたいだ。
さて、問題は取り出せるかだ。先程とは真逆のことをイメージする。手に魔力を集めていく……ダメか。無くなってもばれないだろうが、それは避けたい。もう一度……。もう一度。もう一度。
20分程挑戦し続けた末に『魔術の基礎・全系統網羅版』を取り出すことに成功した。草原に急に現れた自分自身をイメージしてみたら簡単なものだった。単純に逆ということだけをイメージしたのではダメだったようだ。その後何度か出納を繰り返すと、自分の中でものにすることができた感覚があった。早速今日の依頼から活躍してもらうとしよう。
そろそろホールも人が少なくなっているころだろう。もとあった場所に本を戻してから資料室をあとにした。