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朝食は黒パンに肉の入ったスープとサラダにオレンジだった。黒パンはお替り自由のだったので10個程食べたらシスカさんに驚かれた。朝はしっかりと摂らないと体が動かなくなるので、普段の感覚で食べただけなんだが、余り食べる人はいないのか。いや、食べるのが早くて驚いたのか? 10分もかからずに食べ終えたんだが、そんなに早くもないだろうに。
食器をカウンターに下げてシスカさんに鍵を預ける。
「鍵、お願いします。行ってきます」
「怪我しないでちゃんと帰ってきなー」
まだ薄暗い街を歩いていると、家々から朝餉を支度する煙が立ち昇っているのが見える。
ギルドに近づくと宿から冒険者達がちらほら出てくる。雑貨屋は早くも開店準備を終えようとしている。この時間帯に依頼を受けて行動し始める冒険者に合わせているのだろう。人が多かったら依頼を見る前に、昨日ミコちゃんが言っていたギルドの資料室に行って基本的なことを調べよう。調べ終わるころにはゆっくりと依頼を見られるだろう。
開け放たれた扉を潜ってギルドホールに足を踏み入れると案の定、冒険者でごった返していた。この街だからこその混み様なのだろう。全身に鉄鎧を着こんだやつからローブを纏った軽装の奴、猫耳・犬耳・狐耳に首から頬まで鱗の様な物がある奴まで。実に多種多様な装備と人種で溢れている。世の中には実に多くの耳があったようで、ミコちゃんの耳にこだわる必要は無さそうだ。
掲示板前と受付を一瞥して、入口近くの受付側にある階段を昇って二階の資料室を目指す。なにかミスをしたのかミコちゃんがあわあわしていた。
階段を上ってすぐのところに資料室とかかれた扉と黒い箱を見つけた。一度ドアノブに触れてみたが動く気配はない。魔なんとか機?に手を入れると、カチッと軽快な音を立てて鍵が開いた。ギルドとしては部外者に情報をやすやすと与えはしない、ということらしい。
扉をあけると古書店のようなにおいと共に、壁に沿って本棚が配置された20畳ほどの部屋が見えた。部屋の真ん中には小さな机と椅子が置かれていて、読書スペースになっている。本棚はジャンルごとに整頓されているようで、素材や魔獣、魔術などがそれぞれ纏まって一つの本棚に入っている。ただ、隙間なく本棚を埋めていくと半分は空になりそうだ。
あまり時間を掛けて読み込むつもりもないので、最低限必要そうな『シラン近隣の魔獣大全』『魔術の基礎・全系統網羅版』の二冊を手にとって立ち読みを始める。椅子は埃をかぶっていて座りたくなかった。利用者が少ないためか、管理も雑になっているみたいだ。自分で掃除する気もないし、ミコちゃんに後で言っておけばいいだろう。
『シラン近隣の魔獣大全』は大全などと大層なタイトルだが、我ながらよくぞ見つけたと思うほどペラペラの冊子だったのですぐに読み終えた。内容は、妙にリアルな魔獣の絵があり、習性やE~SSSであらわされる強さの目安、証拠提出部位の説明だった。魔獣は20種程が載っていた。大したものではないだろうと思っていたが、証拠提出部位は知らなければマズイことになっていたかもしれない。そしてもう一つ思いがけない収穫があった。ミコちゃんは説明不足だから事前にいろいろと確認するべきということだ。先程あたふたしていたところと併せて考えるに、少々抜けているのか経験が浅いのだろう。依頼受注時に情報漏れとかされたら命に係わりかねないと思うんだが、この資料室の現状をみるに、冒険者も大雑把で情報をそこまで重視していないせいだろう。ベテランは経験があるため立ち寄らないのは理解できるが、ルーキーは情報を少しでも得て未知を減らさないといけないはずだ。これでルーキーの死亡率が高いようなら、ランクを上げて信用を得てからいろいろと提案してみよう。多少はましになるだろう。
さて、次はお待ちかねの魔術指南書だ。