傀儡<マリオネット>
思いついたまま書いています。駄文ですので勘弁を。
16年前の嵐の夜、村に辿り着いた所で息絶えた初老の旅人がいた。旅人は息を引き取る間際に孫を頼むと生後間もない赤子を村人に託した。
旅人は丁重に埋葬され、赤子は子宝に恵まれなかった夫婦が引き取りフレイという少年に成長した。
季節は春。
とある辺境の村の民家の朝の出来事である。
ベッドの温もりに捕らわれている少年は、自分の名を呼び優しく起こす母の声で意識を覚醒させつつあった。
母に起こされたフレイがベッドから降り、意識が完全に覚醒した時、突如、頭に声が響いた。
この日は16回目の両親との出会いの日。両親が決めた誕生日。
フレイはこの日、前触れも無く神のお告げを受けた。
季節は夏。
フレイは神のお告げに盲目的に従う様になっていた。
お告げの内容は日々の行動を事細かく指示する内容であった。当初は困惑していたフレイだが、指示通り行動すると自分で考えるより効率よく物事が成功し、村にも多大な貢献をしている事に気付くと最早疑う余地は無かったのだ。
フレイは、このまま平和な生活が続くと思っていたいたが、それは唐突に終わった。
季節は秋。
魔物の集団が村に襲来した。
小物の魔物は、自分ならば容易く葬れる強さであった。フレイは小物を仕留めてからボスをやるべきだと考えていた。
しかし、お告げは違った。自分ならたやすく葬れる小物の魔物を無視し、集団の奥に控えるボスに突撃するように指示してきたのだ。
フレイは苦戦しながらも時間はかかったがボスを倒す事に成功する。このフレイの活躍によりボスを失った魔物は逃走し始めた。
村人がフレイの活躍を褒め称える中、フレイは狂乱状態に陥っていた。
お告げの指示でフレイが無視した小物の魔物が、村人を襲い多くが死傷者が出ていた。その中にはフレイの両親の姿もあったのだ。
フレイが集団の奥に控えていたボスを単身倒したとしても、結果的に多勢に無勢。小物の魔物を倒せず村は蹂躙されていたのだった。
息を引き取ろうとしている両親からフレイは自分の出生を知らされた。そして自分を連れてきた旅人の遺品が、地下室に保管してある事も伝えられた。
両親を埋葬したフレイは、旅支度を済まし実の両親を求め王都に旅立った。
季節は巡って再び春。
フレイは王都に辿り着く道のりも、お告げに従って行動していた。
明らかに格上と判断できる魔物に無謀にも突っ込めとお告げを受けたりもした。逃げるお告げを受ける事もあったが、当然ながら意識を失う事もあった。しかし、そのたびに誰かに救出されているのか、最寄り教会で目覚める不思議な体験もした。
フレイは多くの不思議な体験をしながら王都に辿り着く。
道中の村々に貢献する事も出来た。信頼出来る仲間に巡り会えた。ましてや王都に付くなり、王城に招待されるに至ってフレイは夢を見ている気分だった。
そして王から騎士の叙勲を受け、魔王討伐の勅命を受けた。
全てはお告げ通りの行動した結果だった。
数年後。
直接魔王を倒しには行かず世界を回りより強力な装備をお告げ通りに入手したフレイは、魔王領に捕らわれていた実両親を救い出し魔王を討伐した。
喜び勇んで王都に凱旋中、遠くで自分の名を呼ぶ声が聞こえる。
そしてフレイの意識はゆっくりと消えていった。
季節は春。
辺境の村の民家の朝の出来事である。
過去に旅人が残した赤子が成長した少女は、フレイヤと名付けらていた。
少女はすくすくと成長した。いや、し過ぎたと言えるだろう。それは8才の頃には大人と狩りに同行し、15才にして村一番の猟師に成長していた。
そして今日、16回目の誕生日を迎えた。
少女は夢をみていた。それは自分が勇者フレイとなって魔王を倒す夢だ。
ベッドの温もりに捕らわれていた少女は、自分の名を呼ぶ母の声でゆっくりと意識を覚醒させつつあった。
母に起こされフレイヤがベッドから降りた時、突如、頭に声が響いた。
それは夢でみた勇者と同じ、神のお告げだった。
だが、夢のお告げと現実のお告げの内容は違った。フレイヤは何故か夢の内容をハッキリと覚えていたから気が付いた事だ。
フレイヤはこの時、夢のお告げは予言に違いないと考え、夢と違うお告げに対して半信半疑であった。
季節は秋。
かつて見た予言通り、魔物によって村が襲撃された。
フレイヤは戦慄を覚えた。このままでは両親が死んでしまうと。そこでお告げに逆らい両親を守る事を決意し行動を始めようと決めた。
しかし、お告げの指示は小物の魔物を村人全員で倒す事を優先した物だった。結果として村への被害は最小限だった。
両親が無事で、フレイヤは神に感謝した。そして、お告げに逆らおうとした自分を恥じた。
魔物の襲撃後、フレイヤの活躍を見届けた両親は出生を教えた。そして旅人の遺品を好きに使うように伝える。
フレイヤは驚きでは無く悲しみに包まれた。それは予言通りだったからだ。
だが旅人の遺品をみてフレイは驚いた。そこには、勇者フレイが使っていた装備がそのままあったからだ。
そして、あれは予言では無かったのかと混乱し始めた。
その後、フレイヤは夢で見ていたとおり、神のお告げに従って魔王を倒していた。
だが凱旋時に意識が途絶える所まで再現されるとは考えていなかった。
幾度目の春だろうか。
若者は、魔王を倒す夢から覚めるたびに、自分が魔王を倒しに行くという夢を見続けていた。
気が付けば自由に出入り出来るようになっていた地下室には、ありとあらゆる武具が揃っており、それぞれの使い方を熟知していた。
そしてまた16才の誕生日が来る。
若者は、これは夢なのか現実なのか既に区別が付かなくなっていた。それどころか、自分の性別すら分からなくなっていた。
しかし遂に変化が起こった。
神のお告げが来なかったのだ。
若者は戸惑った。既に自分で考え行動する事を放棄している事にも気が付いたのだ。
その年、魔物の襲来も無く、時が止まったように村にも変化が無かった。
若者は何をしてよいのか分からず、ただ生きていた。
そして月日は流れ、若者も大人となり、家族も増えた。
若者は双子の男女を生んだ。過去を知らない夫が、双子にフレイとフレイヤと名付けた。
この時、漸く自分が女性であった事を実感した。
そして神のお告げという呪縛から解放されてた事を知り涙した。
RPGの主人公に意識があったら?
周回プレイ&コンプリート後のプレイヤーに放棄されたゲームで、NPCとなった主人公はどうなるのだろうか?
等と考えて書いてみました。