あかりの記憶2
会ったといっても、お互いに相手を認識したわけではなかった。むしろ、男はあかりの存在すら認識していなかったのかもしれない。
その日のその時間、私と兄の守は、ちょうどソファーで寝ていた。学校が終わった後に、バスケバカの守に付き合い、一緒にバスケをしまくって2人とも疲れてしまったのだ。父はまだ帰ってきてなかった。
そんな時だった。あの男が訪ねてきたのは。私は、何度も連続で鳴るチャイムの音で目が覚めてしまった。兄は多分寝ていたままだったと思う。
急いで母が、「はーい。どちら様ですか?」と言いながら玄関の扉を開けるとそこに1人の男がいた。
母は、驚いたように息を呑んだ。その男は、驚きで固まった母を押し退けて家に入ってきた。
我に返った母が震えた声で「出てって!」と小声で叫ぶ。
男は母の叫びを無視し、なんと母を抱き締めた。さらに、「離して!」と暴れる母を壁に押さえつけてキスをした。
私は、薄目を開けてそれを見ていた。そして、ボッーとした頭で、(お母さんをギュッとしたり、ちゅーしたりするのはお父さんのすることなのに…)と考えていた。私はその光景を見ていられなくて、ギュッと目を瞑った。
すると、いきなりバチンッと音が聞こえてくる。
目を開けると、母と男はもうキスはしていなかった。そして、男は頬を押さえている。
すると、母の本当に怒っているときの声が聞こえてきた。
「子供達がそこで寝てるのよ!何をするの!」
男は何かを言おうとしたが、母に「もう帰って」と家から追い出された。
男がいなくなると、母が泣きだした。
私は、狸寝入りを続けながら、(あの人誰かに似ている)と最初に思ったことを考えていた。
それから何年か経ち、私はその答を見つけた。きっかけは、兄の小学校卒業祝いに来た親戚の話の盗み聞き。
親戚は沢山の情報をくれた。
あの男は、有名なバスケットプレイヤーの佐藤光輝で母とは中学で出会ったこと。
父は初婚だが、母は再婚であること。
そして、母の初婚の相手があの男佐藤光輝であること。
「どうして気付かなかったんだろう。」
そうだ、あの人は兄の守に似ていた。