表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

袋をかぶってみたら

作者: 和田喬助

「コウタ、ちょっとこれをかぶってみろよ」

 友達であるショウジの家を訪れたら突然、彼が袋を差し出してきた。

 それは最近はやりの買い物袋で、ちょうど人の頭が一つ入るくらいの大きさだ。濃い緑色をしているので、中身が見えることはないだろう。

『なんで、そんなことしなくちゃいけないのさ』というぼくの言葉は無視され、ショウジに無理やりそれをかぶせられた。

 頭がすっぽりとおおわれたとたん、ぼくは吐き気におそわれた。強烈な鉄のようなにおいが、ぼくの鼻をめちゃくちゃにしようとする。とても血生臭い。

「ショウジ、一体どういうつもりだ?」

 ぼくは袋を投げ捨てて怒鳴ったが、目の前にいたはずのショウジが消えうせている。

 ショウジを探そうと腰を上げかけると、ぼくの首筋に冷たくて硬く、先のとがっているものが触れた。

「そのまま動くなよ」

 いつの間にか、ショウジはぼくの後ろに回り込んでいた。彼の声はいつもより低く、その生温かい吐息が自分のうなじを舐めまわす。

「な、何のマネだ……?」

 ぼくは人一倍気が弱い。だから自分の置かれている状況を察すると、すぐに声が裏返ってしまった。

 ショウジは、ぼくにサラリーマンの平均月給の二カ月分くらいの借金をしている。今日はその返済の交渉をするためにやってきたのだ。

 ショウジは今、一瞬で借金をチャラにしようとしているのかもしれない。突きつけられているのは、おそらく小さいナイフだろう。

「こ、こんなことしても、後で後悔するだけだぞ」

 ぼくは声を震わせながら、ショウジを説得した。今時、人を殺して捕まらない事はあまりないはずだから。

 ショウジは、片手でさっきぼくが投げ捨てた袋を拾った。そしてぼくの前でちらつかせる。

「お願いがあるんだけどさあ……」

 ショウジが声を荒らげた。ぼくは目をギュッとつむり、つばをゴックンと飲み込んだ。ああ、死ぬのはいやだ!

「実はさ、鉄鍋を買ってこの袋に入れたら、鉄臭くなっちゃったんだよ。よかったらオレの代わりに洗ってくれない? 洗濯機を回すのはもったいないから手洗いでな」

 ショウジはハハハハ、と笑った。彼が持っていたのは、家のカギだった。

 悪ふざけしてごまかさないで、早くお金返してくれ。

 


 


 

ショートショート作品を書く勉強をしています。よかったら評価してください。どんなにひどい点数でも遠慮せずに付けてくださいね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] コ・ロ・サ・レ・ル!!と思ったら実は、買い物袋を洗ってくれ、というお願いだったとは…。しかも小型ナイフでは無く家のカギだったなんて、フェイントを仕掛けられました。 因みにあの袋はビニール袋で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ