袋をかぶってみたら
「コウタ、ちょっとこれをかぶってみろよ」
友達であるショウジの家を訪れたら突然、彼が袋を差し出してきた。
それは最近はやりの買い物袋で、ちょうど人の頭が一つ入るくらいの大きさだ。濃い緑色をしているので、中身が見えることはないだろう。
『なんで、そんなことしなくちゃいけないのさ』というぼくの言葉は無視され、ショウジに無理やりそれをかぶせられた。
頭がすっぽりとおおわれたとたん、ぼくは吐き気におそわれた。強烈な鉄のようなにおいが、ぼくの鼻をめちゃくちゃにしようとする。とても血生臭い。
「ショウジ、一体どういうつもりだ?」
ぼくは袋を投げ捨てて怒鳴ったが、目の前にいたはずのショウジが消えうせている。
ショウジを探そうと腰を上げかけると、ぼくの首筋に冷たくて硬く、先のとがっているものが触れた。
「そのまま動くなよ」
いつの間にか、ショウジはぼくの後ろに回り込んでいた。彼の声はいつもより低く、その生温かい吐息が自分のうなじを舐めまわす。
「な、何のマネだ……?」
ぼくは人一倍気が弱い。だから自分の置かれている状況を察すると、すぐに声が裏返ってしまった。
ショウジは、ぼくにサラリーマンの平均月給の二カ月分くらいの借金をしている。今日はその返済の交渉をするためにやってきたのだ。
ショウジは今、一瞬で借金をチャラにしようとしているのかもしれない。突きつけられているのは、おそらく小さいナイフだろう。
「こ、こんなことしても、後で後悔するだけだぞ」
ぼくは声を震わせながら、ショウジを説得した。今時、人を殺して捕まらない事はあまりないはずだから。
ショウジは、片手でさっきぼくが投げ捨てた袋を拾った。そしてぼくの前でちらつかせる。
「お願いがあるんだけどさあ……」
ショウジが声を荒らげた。ぼくは目をギュッとつむり、つばをゴックンと飲み込んだ。ああ、死ぬのはいやだ!
「実はさ、鉄鍋を買ってこの袋に入れたら、鉄臭くなっちゃったんだよ。よかったらオレの代わりに洗ってくれない? 洗濯機を回すのはもったいないから手洗いでな」
ショウジはハハハハ、と笑った。彼が持っていたのは、家のカギだった。
悪ふざけしてごまかさないで、早くお金返してくれ。
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