玄関
三題噺もどき―はっぴゃくごじゅうろく。
玄関で、靴を履きながら、靴棚の上のトレーに手を伸ばす。
そのトレーは、母の趣味で可愛らしいカピバラが描かれている。
母の趣味はよくわからない所があるんだが……まぁとりあえず可愛くて本人が気に入ればいいみたいな感じだな。
「……」
端の方に小さなサンタクロースがいたり、桜の毬みたいなのが飾られていたり……季節感のよく分からない棚が出来上がっている。
この辺りもそのうち片付けるんだろうけど、割と長い間放置されている。
「……」
手に取ったのは、学校の紋章をかたどったピンバッジ。
それを、制服の所定の位置につける。
今日は服装チェックがあると言われていたから、必ずつけていないと注意される。外さなきゃいいんだけど、週末は癖で外してしまう。
「……」
外れないようにしっかりとついたことを確認する。
ついでに置いてある鏡で、リボンと髪形を確認する。
どうせ自転車を漕ぐと乱れるので意味がないのだけど。
「……」
家の中では、どこか忙しなく母が準備をしている。
今日は遅番だといっていたけど、何を忙しくしているんだろう。
妹2人はもう出ている。ついさっきだけど。
「……」
ついでに、近くに置いてある自転車の鍵を手に取る。
小さな鍵は下手をすると失くしてしまうので、キーホルダーをつけている。
あまり大きいとタイヤに巻き込まれかねないので、小さめでかつ目立つもの。
ホントは大き目のものを付けたいんだけど……。
「……ってきます」
聞こえていないであろう声量で、小さく呟く。
玄関を押し開くと、痛いほどの日差しが視界に飛び込んでくる。
一瞬、あまりにも眩しすぎで顔をしかめ、扉を閉めたくなった。
「……」
そういうわけにもいかないので、玄関を閉め、鍵をかける。
家の鍵は、自転車の鍵とは別にしてある。こちらは大き目のキーホルダーをつけているので、失くすことはない……と信じている。
その家の鍵をリュックの横のポケットに突っ込んでおく。落ちないように。
「……」
しかし今日あまりにも眩しすぎる。
朝だと言うのに、少し汗ばむくらいに暑いし……いつの間にか夏日にでもなったんだろうか。視界を狭めながら、見上げてみれば、気持ちのいいほどに綺麗な青空が広がっている。雲一つないとはこのことかと……。
「……」
その端の方を、鳥の群れが飛んでいた。
こんな時期に飛ぶ渡り鳥がいるんだろうかと思ったが、この辺りは鳥が割と多い。スズメはもちろん、ハトとかシラサギみたいなのもいる。
鷹も確か居るはずだし、あの飛ばずに道路をちょこまかと走る鳥もいる。
「……」
近くの公園が、鳥の保護区みたいなものになっている……らしい。
あまり詳しくは知らない。ずっとこの辺に住んでいるようなものだから、アレが当たり前だと思っているもので。
「……」
まぁ、まぁ、そんなことはさておき。
こんな時期に飛ぶ渡り鳥もきっといるんだろう。
興味のないことは分からない。私が興味のある事なんて大抵あの子がらみでしかない。あの子が鳥が好きだっていうならまぁ知りたいと思うかもしれないけれど。
「……」
そんなことを考えながら、自転車を取りに向かう。
たいした距離ではない。我が家は基本的に野ざらし状態で自転車を置いているので、雨にぬれればそのまま、サビている。
「……」
もう、中学から乗っている自転車なので、鍵が少々開けづらくて仕方ない。
差し込んですぐに開くものでもないので、なんとか差し込み半ば無理やりこじ開ける。
一時期買い替えるかと話をしていたんだけど、別に乗れないわけでもないし、そう簡単に買えるようなものでもないので、同じ自転車を乗り続けた。
「……」
スタンドを倒し、自転車を押す。
私は片足で乗るという器用なことは出来ないので、ある程度道路側に出て、車がこない事を確認したうえで自転車にまたがる。
「……」
今日からまた、1週間が始まる。
お題:紋章・カピバラ・渡り鳥




