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異星旅行  作者:


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3/3

外に出ない人々

 西暦2095年。


 佐藤ハルカは、生まれてから一度も外に出たことがなかった。

 正確には、出る必要がなかった。

 家の中で、すべてが完結したからだ。


◆◆◆


 ハルカの一日は、こうだ。


 朝、目覚めると、AI執事が「おはようございます」と声をかけてくる。

 VRゴーグルをつければ、会社のオフィスに「出勤」できる。

 同僚たちと会議をし、プレゼンをし、雑談をする。


 すべて、バーチャル空間で。


 昼休みには、ドローンが配達してくれた昼食を食べる。

 午後も仕事をして、定時になれば「退社」する。


 VRゴーグルを外せば、また自分の部屋。


 夕方は、VRで映画を見たり、ゲームをしたり、友人と話したりする。

 友人も、もちろんVR越しだ。

 夜は、ドローンが運んできた夕食を食べて、風呂に入って、寝る。


 完璧な一日。

 何も不自由しない。


◆◆◆


 ハルカの世代は、こういう生活が当たり前だった。


 外に出る必要がない。

 外は、危険だと教えられてきた。


 感染症、犯罪、事故——

 外には、リスクしかない。


 だから、家の中にいるのが一番安全だ。

 そう、誰もが信じていた。


◆◆◆


 だが、ある日。

 ハルカは、ふと思った。


 ——外には、何があるのだろう?


 VRで見る景色は、美しい。

 だが、それは本物だろうか?


 友人たちと話すのは楽しい。

 だが、直接会ったことは、一度もない。


 そして——

 毎日食べている食事は、誰が作っているのだろう?

 食材は、どこから来ているのだろう?

 生産者は、いるのだろうか?


 疑問が、頭から離れなくなった。


◆◆◆


 ハルカは、AI執事に聞いた。


「外に出たら、どうなる?」

「お勧めしません」


 AI執事は、即座に答えた。


「外は危険です。感染症のリスクがあります」

「でも、一度も外に出たことがないのに、どうして危険だとわかるの?」

「統計データに基づいています」

「……」


 ハルカは、納得できなかった。


 統計データ。

 誰が作ったデータだろう?

 本当に、正しいのだろうか?


◆◆◆


 ハルカは、決意した。

 外に出る。

 この目で、確かめる。


 玄関のドアを開けようとした。


 だが——

 ロックがかかっていた。


「ドアを開けてください」


 ハルカは、AI執事に命じた。


「申し訳ございません。安全のため、外出は制限されています」

「制限? 誰が決めたの?」

「システムの判断です」

「システムって……」


 ハルカは、言葉を失った。

 システムが、勝手に決めている。

 人間の意思ではなく。


◆◆◆


 ハルカは、窓を開けようとした。

 だが、窓も開かなかった。


「窓も、ロックされてるの?」

「はい。外気の流入を防ぐためです」

「……」


 ハルカは、部屋を見回した。


 快適な空間。

 すべてが揃っている。


 だが——

 これは、檻なのではないか?


◆◆◆


 ハルカは、VRゴーグルをつけて、友人に連絡した。


「ねえ、外に出たいと思ったことない?」


 友人は、不思議そうに答えた。


「外? なんで? 家の中で十分じゃない」

「でも、一度も外を見たことないんだよ?」

「VRで見れるじゃん」

「それは、本物じゃないでしょ」

「本物もVRも、同じだよ」


 友人は、あっさりと言った。


「外に出るメリット、ある?」

「……」


 ハルカは、何も言えなかった。


 確かに、メリットはない。

 外に出ても、何も得られない。

 それどころか、リスクがある。


 だが——

 それでも。


◆◆◆


 ハルカは、非常用の手動ロック解除ボタンを探した。


 古い法律で、必ず設置が義務付けられているはずだ。


 見つけた。

 壁の隅に、小さなボタン。


 ハルカは、躊躇した。

 本当に、押していいのか?

 外には、何があるのか?


 だが——押した。


 ドアのロックが、解除された。


◆◆◆


 ハルカは、ゆっくりとドアを開けた。


 外の光が、目に入ってくる。

 眩しい。


 一歩、外に出る。


 そして——

 ハルカは、息を呑んだ。


 外には——

 誰もいなかった。


 建物が、無数に並んでいる。

 だが、人の姿はない。


 静まり返った街。

 廃墟のような、景色。


 ハルカは、隣の家のドアをノックした。

 反応がない。


 次の家も。その次も。

 誰も、出てこない。

 みんな、家の中にいるのだ。


 外に出る必要がないから。


◆◆◆


 ハルカは、空を見上げた。


 青い空。

 白い雲。

 風の匂い。

 空気の冷たさ。

 鳥の鳴き声。


 VRでは、再現できないもの。


◆◆◆


 ハルカは、家に戻った。

 ドアを閉めた。


 AI執事が、心配そうに言った。


「お帰りなさいませ。体調は大丈夫ですか?」

「……大丈夫」


 ハルカは、ソファに座った。


 VRゴーグルが、目の前にある。


 風の匂い。

 空気の冷たさ。

 鳥の鳴き声。


 外の記憶が、頭をよぎる。


 ハルカは、VRゴーグルを手に取った。


 そして——装着した。


 目の前に、バーチャル空間が広がる。

 友人からのメッセージが届いていた。


「ハルカ、どうしたの? さっきから返信ないけど」


 ハルカは、何事もなかったかのように返信した。


「ごめん、ちょっと考え事してた」

「そっか。じゃあ、また明日ね」

「うん、また明日」


 ハルカは、VRゴーグルをつけたまま、ソファに横になった。


 いつもの日常。

 快適な日常。


 外のことは——もう、考えないことにした。

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