異星旅行
僕は、休暇を取った。
そして、人気の観光ツアーに申し込んだ。
「地球旅行、三日間コース」
地球——
銀河系の辺境にある、未開の惑星だ。
原始的な文明。
興味深い生態系。
観光地として、最近人気が出ている。
◆◆◆
宇宙船は、地球の軌道に到着した。
青い惑星。
美しい。
ガイドが、説明を始めた。
「皆様、ようこそ地球へ。この惑星には、『人間』という知的生命体が生息しています」
「知的生命体?」
乗客の一人が、驚いたように言った。
「はい。一応、知的と分類されています。ただし、文明レベルは初期段階です」
ガイドは、微笑んだ。
「彼らは、まだ自分たちの惑星から出られません。宇宙旅行の技術を持っていないのです」
乗客たちは、笑った。
未開だ。
本当に、未開な惑星だ。
◆◆◆
僕たちは、地球に降り立った。
もちろん、透明化フィールドを展開している。
地球人には、見えない。
僕たちは、街を歩いた。
人間たちが、忙しそうに動き回っている。
ガイドが、説明する。
「人間は、短命です。平均寿命は、わずか80年ほど」
「80年!」
乗客たちは、驚いた。
僕たちの寿命は、平均500年だ。
80年なんて、あっという間だ。
「そのため、彼らは常に焦っています。時間に追われ、ストレスを抱え、短い人生を必死に生きているのです」
ガイドは、哀れむように言った。
◆◆◆
僕たちは、人間の家を覗いた。
家族が、食事をしている。
「人間は、毎日『食事』をします。エネルギーを摂取するためです」
「毎日?」
「はい。一日に三回も」
乗客たちは、驚いた。
僕たちは、月に一度の栄養カプセルで十分だ。
毎日三回も食事をするなんて、非効率的だ。
「しかも、彼らは『料理』というものを作ります。食材を加工し、味付けし、手間をかけて——」
「なぜ、そんな面倒なことを?」
「わかりません。文化的な習慣だと思われます」
ガイドは、首を傾げた。
◆◆◆
僕たちは、学校を訪れた。
子供たちが、勉強している。
「人間は、生まれた時は何も知りません。そのため、長い時間をかけて教育を受けます」
「知識のダウンロードはしないのですか?」
「彼らには、その技術がありません」
ガイドは、笑った。
「一つ一つ、手作業で学ぶのです。非効率ですね」
乗客たちは、同情した。
僕たちは、生まれた瞬間に基礎知識をダウンロードされる。
人間は、可哀想だ。
◆◆◆
僕たちは、病院を訪れた。
人間が、横になっている。
「人間は、よく病気になります。体が弱いのです」
「治療は?」
「彼らの医療技術は、まだ未熟です。完全な治療はできません」
ガイドは、言った。
「そして、やがて——死にます」
「死?」
「はい。人間は、必ず死にます。老化を止める技術を持っていないのです」
乗客たちは、沈黙した。
僕たちは、不老技術を持っている。
死ぬなんて、考えられない。
人間は——
本当に、可哀想な生き物だ。
◆◆◆
ツアーの最後、僕たちは展望台に案内された。
地球の夜景が、美しく輝いている。
ガイドが、言った。
「いかがでしたか? 地球旅行は」
乗客たちは、口々に答えた。
「面白かった」
「未開な惑星だったけど、興味深かった」
「人間って、不思議な生き物だね」
ガイドは、頷いた。
「そうですね。彼らは、短命で、非効率的で、病気になりやすい。でも——」
ガイドは、地球を見つめた。
「それでも、彼らは生きています。必死に、懸命に」
僕も、地球を見た。
人間たちは、今も動き回っている。
短い人生を、精一杯に。
◆◆◆
宇宙船に戻る時、僕はガイドに聞いた。
「ガイドさん、あなたは地球人のこと、どう思いますか?」
ガイドは、少し考えてから答えた。
「彼らは——幸せだと思いますか?」
「え?」
「僕たちは、長生きで、健康で、知識もある。でも、彼らのように必死に生きたことは、ありません」
ガイドは、寂しそうに微笑んだ。
「もしかしたら、僕たちの方が——」
その時、アナウンスが流れた。
「乗客の皆様、地球観光ツアーは終了です。次の目的地は、火星です」
僕は、窓から地球を見た。
青い惑星が、遠ざかっていく。
そして——
ふと、思った。
僕は、本当に観光客なのだろうか?
◆◆◆
宇宙船の中で、僕は鏡を見た。
そこには——
人間の姿が映っていた。
僕は、はっとした。
これは——
VR体験ツアーだったんだ。
僕は、地球人。
異星人の視点で、自分たちの惑星を見る——
それが、このツアーの内容だった。
僕は、VRゴーグルを外した。
目の前には、いつもの部屋。
地球の、自分の部屋。
広告が、目に入った。
「地球を、外から見てみませんか? 異星旅行VRツアー、好評開催中!」
僕は、苦笑した。
自分たちは——
本当に、未開なのだろうか?




