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朝香層と、ころころ芋

朝ごはんを食べ終えると、リラはパンの欠片を大事そうに手のひらに乗せたまま、

きらきらした目で碧を見上げた。




「あおい、きょうはなにするの?」


「大地の食材を採りに行こうか。

 昼のスープに使う材料がほしくてね」


「いく! いきたい!」




リラは椅子から飛び降り、靴をつっかける。

その勢いに、碧は思わず笑ってしまった。



家の外に出ると、朝の光が大地を照らしていた。

地面からは、ほんのり甘い香りが立ちのぼっている。



「ねえ、あおい。

 この匂い……パンみたい」


「それは“朝香層あさかそう”の香りだよ」


「朝香層……?」



碧はしゃがみ込み、地面の表面をそっとめくった。

すると、淡いクリーム色の層がふわりと顔を出す。



「朝の時間だけ甘い香りが強くなる層なんだ。

 焼くとパンみたいに香ばしくなる」



リラは目を丸くして、指先でそっと触れた。



「……やわらかい……!

 ほんとにパンみたい……!」


「この世界の大地は、時間帯で味が変わるんだよ。

 朝香層は特に人気だ」



碧は小さなナイフで朝香層を切り取り、籠に入れた。



「次は……あっちだな」



森の手前にある小さな丘へ向かうと、

地面から丸い実のようなものがいくつも顔を出していた。



「これ、なに?」


「《ころころ芋》だよ。

 煮るとほくほくして、スープにぴったりなんだ」



リラはひとつ持ち上げ、鼻を近づけた。



「……ちょっとミルクの匂いがする」


「いい鼻してるな。

 昼のスープはこれで決まりだ」



リラは嬉しそうに芋を籠に入れた。


そのとき、風がふわりと吹き抜けた。

どこかで、かすかに甘い香りがした。





碧は一瞬だけ立ち止まる。




――この香り……。




朝香層とは違う。

もっと淡くて、もっと遠い記憶の味。


けれど、すぐに風は止み、香りも消えた。




「あおい?」


「いや……なんでもないよ。

 さあ、もう少し採ろうか」




碧は微笑み、リラの頭を軽く撫でた。


リラは照れたように笑い、また芋を探し始める。



朝の光の中、

ふたりの影が並んで揺れた。



大地の甘い香りと、

ほんの少しの懐かしさを乗せて。

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