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朝のパンと、穏やかな香り

朝の光が窓から差し込み、台所の木の床をやわらかく照らしていた。


夜の冷たい甘さはすっかり消え、代わりに温かい香りが部屋に満ちていく。



碧は大地パンの生地をこねながら、静かに息を吐いた。

この世界のパンは、地面の“ふかふか層”から採れる生地を使う。


ほんのり甘くて、焼くと外はカリッと、中は雲みたいに柔らかい。




「……そろそろ起きる頃かな」




オーブン代わりの“熱石窯”に生地を入れると、

じゅわっと小さな音がして、香ばしい匂いが広がった。


その匂いに誘われるように、客間の扉がきしりと開く。




「……あおい……?」




寝ぼけた声。

髪が少し跳ねていて、目はまだ半分閉じている。




「おはよう、リラ。よく眠れた?」


「……うん。すっごく……あったかい夢だった……」




夢星のプリンの効果だろう。

リラの表情は昨日よりずっと柔らかい。




「朝ごはん、パンだよ。もうすぐ焼ける」


「ぱん……!」




リラの目がぱっと開いた。

子どもらしい反応に、碧は思わず笑ってしまう。


熱石窯からパンを取り出すと、

表面がこんがりと色づき、湯気がふわりと立ちのぼった。




「わあ……!」




リラは思わず両手を胸の前でぎゅっと握る。




「熱いから気をつけて。

 まずはちぎって、バターの実を塗るとおいしいよ」




碧はバターの実を割り、柔らかい中身をパンに塗った。


じゅわっと溶けて、甘い香りがさらに広がる。


リラは小さくちぎったパンを口に運んだ。





一瞬、目を閉じる。

そして――



「……おいしい……!

 ふわふわで、あまくて……しあわせ……」


「よかった」




碧は自分の分のパンをちぎりながら、

リラが嬉しそうに食べる姿を眺めた。


その光景に、胸の奥がじんわりと温かくなる。




――誰かと一緒に朝ごはんを食べるのは、いつぶりだろう。



記憶は相変わらず霧の中だ。

けれど、こうして誰かが隣にいる朝は、

どこか懐かしい気がした。




「ねえ、あおい」




リラがパンを頬張りながら言う。




「きょうも……いっしょにいていい?」




碧は少しだけ驚いたが、すぐに笑った。



「もちろん。

 リラがよければ、いつまででも」



リラは嬉しそうにパンをもう一口かじった。


朝の光が差し込み、

焼きたてのパンの香りが家中に広がる。




こうして、碧とリラの“朝の時間”が始まった。


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