星の余韻と、静かな夜
リラは夜空のプリンを食べ終えると、器を抱えたまま小さくあくびをした。
夢星の力が効いてきたのだろう。
まぶたがとろんと落ちていく。
「眠くなった?」
「……うん……すごく……あったかい……」
碧は微笑み、リラを客間のベッドへ案内した。
ふかふかのパン生地のような布団に包まれると、
リラはすぐに呼吸をゆっくりと整え始めた。
「おやすみ、リラ」
返事はなかった。
けれど、穏やかな寝息がすべてを物語っていた。
碧はそっと部屋を出て、台所に戻る。
夜空のプリンを蒸した鍋から、
まだほんのりと甘い香りが漂っていた。
星の花が溶けたあの香りは、
夜の空気と混ざって、静かに部屋を満たしている。
碧はその香りを吸い込み、ふと手を止めた。
――この香り、やっぱり……。
胸の奥が、かすかに疼く。
遠い夜の記憶。
星の下で、誰かと並んで食べた甘いデザート。
名前も顔も思い出せないのに、
その温かさだけが、確かに残っている。
「……誰だったんだろうな」
呟いても、答えは返ってこない。
ただ、夜空のプリンの香りだけが、
静かに碧の心を揺らした。
窓の外では、星がひとつ、またひとつと瞬いている。
夜の世界は、昼よりもずっと静かで、
どこか優しい。
「……明日は、何を作ろうか」
碧は鍋を洗いながら、
明日の献立を考え始めた。
大地のスープに、星の果実。
リラが喜びそうなものを、いくつも思い浮かべる。
そのとき、客間から小さな寝言が聞こえた。
「……おいしかった……」
碧は思わず笑ってしまう。
「そりゃよかった」
夜の台所に、静かな余韻が残った。
星の香りと、温かい記憶のかけら。
それだけで、十分だった。




