夜空のプリン
家に戻ると、碧は少女――リラを椅子に座らせ、台所に火を灯した。
夜の台所は、昼とは違う匂いがする。
冷たい甘さと、星の光が混ざったような静けさだ。
「今日は特別なデザートを作るよ。
夜空のプリンっていうんだ」
「……ぷりん?」
リラが首をかしげる。
その仕草が小動物みたいで、碧は少し笑った。
「星の花を使った、夜だけのプリンだよ」
碧は《夢星の花》をまな板に置き、花びらをそっと摘み取る。
淡い光が指先にまとわりつき、ひんやりとした感触が残る。
鍋に牛乳のような“大地ミルク”を注ぎ、弱火にかける。
温まってくると、ほんのり甘い香りが立ちのぼった。
「ここに、夢星を溶かす」
花びらを落とすと、ぱちりと小さな音がして、
光がミルクの中にゆっくり溶けていく。
リラは目を丸くした。
「……きれい……」
「まだまだ、ここからだよ」
碧は大地卵を割り、星ミルクと混ぜ合わせる。
とろりとした液体が、夜空のように淡く光り始めた。
「これを蒸すと、夜空のプリンになる」
蒸し器に器を並べ、そっと蓋を閉じる。
しゅう、と静かな蒸気の音が台所に広がった。
リラは椅子の上で小さく揺れながら、
碧の手元をじっと見つめている。
「碧って……すごいね。
星で、こんなにおいしそうなの作れるんだ」
「星はね、優しい食材なんだよ。
怖がる必要なんてない」
リラは少しだけ安心したように笑った。
蒸し上がったプリンを取り出すと、
表面がゆらりと揺れ、淡い光が星屑のように散った。
「……ほんとに夜空みたい……!」
「食べてみて」
リラはスプーンを入れ、そっと口に運んだ。
一瞬、目を閉じる。
そして――ふわりと頬が緩んだ。
「……あまくて……やさしくて……
胸が、あったかくなる……」
「それが夜空のプリンの力だよ」
碧は微笑む。
その香りを吸い込んだ瞬間、胸の奥が少しだけ揺れた。
――この香り、どこかで。
ほんの一瞬だけ、星の下で誰かと食べた記憶がよぎる。
けれど、それはすぐに霧のように消えた。
「碧?」
「大丈夫。ちょっと思い出してただけ。」
リラはプリンを抱えるようにして、嬉しそうに笑った。
「……こんなにおいしいの、はじめて」
その言葉に、碧の胸の奥がじんわり温かくなる。
こうして、夜空のプリンは
リラの心に“最初の灯り”をともした。




