星の落ちる音
夕暮れがゆっくりと沈み、世界が“夜の味”へと変わっていく。
大地の香ばしい匂いは少しずつ薄れ、代わりに冷たい甘さが空気に混じり始めた。
碧は家の前に置いた木の椅子に腰を下ろし、空を見上げる。
夜の星を待つ時間は、いつも胸の奥がざわつく。
理由は分からない。
ただ、星を見ていると、何か大切なことを思い出しそうになる。
「……そろそろだな」
ひとつ、星が揺れた。
光が尾を引き、ゆっくりと落ちてくる。
流れ星よりもずっと遅く、まるで誰かがそっと手渡してくるような優しい速度だ。
碧は立ち上がり、落下地点へ向かう。
大地は夜になると少し冷たくなり、踏むたびに“しゅん”と小さく音を立てる。
森の端に着くと、そこに――
「あれ?」
星の落ちた場所に、誰かがいた。
小さな背中。
肩までの髪が、星の光を受けて淡く揺れている。
少女だ。年は十歳くらいだろうか。
少女は地面に落ちた光の粒を抱きしめるようにして、震えていた。
「大丈夫か?」
声をかけると、少女はびくりと肩を震わせ、ゆっくりと振り向いた。
大きな瞳。
泣いた跡が残っている。
「……こわく、て……」
その手の中には、星が形を変えた《夢星の花》があった。
夜に落ちる星の中でも、特に優しい香りを持つ食材だ。
碧は少女の前にしゃがみ、柔らかく微笑んだ。
「それは、怖いものじゃないよ。
星が“君におやすみ”って言ってるだけだ」
少女はきょとんとした顔をしたあと、
少しだけ、涙の跡が薄くなった。
「……おやすみ、って……星が?」
「そう。いい夢を見られる花なんだ」
碧は少女の手からそっと花を受け取り、立ち上がる。
「うちにおいで。
この星で、温かいデザートを作ってあげる」
少女は迷ったように足をすり寄せたが、
やがて小さく頷いた。
「……いく」
その瞬間、碧の胸の奥がふっと温かくなった。
誰かの手を引く感覚――
それは、遠い記憶の中で確かに感じたことがある気がした。
星の花が、淡く光る。
夜の空気が、甘く揺れた。
こうして、碧のもとに最初の“仲間”が訪れた。




