星を拾う料理人、碧
大地を踏むと、ふわりと香ばしい匂いが立ちのぼった。
焼きたてのパンのように柔らかい地面は、この世界では当たり前の感触だ。
俺――碧は、今日も村の外れで食材探しをしていた。
昼の料理に使う“大地の食材”は、時間帯によって味が変わる。
朝は甘く、昼は素朴で、夕方は少しだけほろ苦い。
「……今日は、いい出来だな」
手にしたのは、土の中から顔を出した《ふかふか芋》。
蒸すとバターのような香りが広がる、村の子どもたちが大好きな食材だ。
碧は、もともとこの世界の人間ではない。
気がついたときには、柔らかな大地の上に倒れていた。
――どうしてここにいるのか。
その理由だけが、霧のように思い出せない。
ただ、胸の奥にひっかかる記憶がある。
誰かの作った料理に救われたこと。
名前も、顔も、声も思い出せない。
けれど、その料理を口にした瞬間の温かさだけは、
今でもはっきりと覚えている。
その人は、よく星を見上げていた気がする。
「星は願いを運ぶんだよ」と、誰かが笑っていた気がする。
記憶はぼやけているのに、その言葉だけが胸に残っている。
だから碧は、料理を作る。
誰かの明日が、少しでも軽くなるように。
そして、星を見上げる癖だけは、この世界に来ても変わらなかった。
「……まあ、考えても仕方ないか」
碧はそう呟いて、大地の食材を拾い集める。
料理をしていると、心が静かになる。
それが“元の世界”と関係している気がしていた。
空を見上げると、薄い雲の向こうで星が揺れていた。
夜になれば、あの星が食材として降ってくる。
碧は鍋を思い浮かべながら、ゆっくりと村へ歩き出した。
――今日の星は、どんな味だろう。




