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第5話

*スレッドの後に本文があります。


【緊急】リナちゃんの装備特定スレ part1【白い狐】

 

 1 :名無しの探索者:202X/XX/XX(日) 14:45:00 ID:TokuteiHAN

 新宿ダンジョンの配信でイレギュラーを瞬殺したリナちゃんの装備について語るスレ。

 かんざし、胸当て、その他身につけているものなら何でも。

 特定班、集合。

 

 23 :名無しの探索者:202X/XX/XX(日) 14:48:10 ID:SoBiMania

 とりあえずあの簪は確定として、胸当てもヤバく音?

 一見ただの革鎧に見えるけど、イレギュラーの咆哮を受けたとき、表面にうっすら幾何学模様が浮いてたぞ。

 これ、物理防御じゃなくて概念防御系の術式じゃね?

 

 24 :名無しの探索者:202X/XX/XX(日) 14:48:25 ID:KaSeTu

 >>23

 マジかよ。そんなの国宝級じゃん。

 Dランク探索者が持ってていいもんじゃないぞ。

 

 25 :名無しの探索者:202X/XX/XX(日) 14:48:40 ID:KiNiNaRu

 そもそもリナちゃんって「初心者探索者」だったろ?

 どっからそんな装備調達したんだ?

 パトロンか?

 

 26 :名無しの探索者:202X/XX/XX(日) 14:49:00 ID:HoriOkoshi

 過去ログ漁ってきた。

 リナちゃんのつぶやき。

『探索者デビューすることになりました! 叔父さんのお店で装備一式揃えてもらったよ! ちょっと古臭いけど、お守りだからって(笑)』

 画像あり。

 店の様子が少し写ってる。


 27 :名無しの探索者:202X/XX/XX(日) 14:49:15 ID:MeGane

 >>26

 でかした!

 画像の解析急げ。

 窓の外に映ってる看板……これ「新宿ゴールデン街」の近くじゃね?

 

 28 :名無しの探索者:202X/XX/XX(日) 14:49:30 ID:MaPPu

 特定した。

 窓の外の電柱の住所表示、拡大処理で読めたわ。

 新宿区歌舞伎町××-××……

 この路地裏にある古道具屋だ。

 

 29 :名無しの探索者:202X/XX/XX(日) 14:49:45 ID:NameIs

 店名判明。

久遠堂くおんどう

 ストリートビューにはボロいシャッターしか映ってないぞ。

「定休日:不定休」っていうか、これ営業してんのか?

 

 30 :名無しの探索者:202X/XX/XX(日) 14:50:00 ID:ToTuGeki

 よっしゃあああああああ!!!

 聖地巡礼行くわ!!!

 あの簪と同じの売ってくれって頼んでくる!!!

 

 31 :名無しの探索者:202X/XX/XX(日) 14:50:10 ID:Matome

【速報】リナちゃんの装備の入手ルート、新宿の古道具屋『久遠堂』と特定される。



 ***


 

 新宿ダンジョン出口付近。

 地上へと続くエスカレーターを駆け上がりながら、リナは自身のスマートフォンが発する異常な振動に恐怖すら覚えていた。

 

 ブブブブブブブブブブブブッ!!!

 

 通知音が重なりすぎて、もはや一つの低い唸り声のように聞こえる。

 恐る恐る画面を覗き込むと、SNSの通知数は「9999+」でカンストしていた。

 

「嘘、嘘でしょ……?」

 

 震える指でトレンド欄を開く。

 

 1位:#リナちゃん

 2位:#白い狐

 3位:#新宿イレギュラー瞬殺

 4位:#管狐

 5位:#久遠堂

 

 自分の名前が並んでいることにも目眩がしたが、それ以上に、見覚えのある店名がランクインしていることに血の気が引いた。

 動画サイトを開けば、あの瞬間――簪から光が溢れ、白い獣が怪物を消滅させたシーン――が、無数のチャンネルで切り抜かれ、拡散されている。

 

『現代魔術の常識を覆す! ロストテクノロジーの再来か!?』

 

『魔術大学教授も困惑! 未知の召喚術式!』

 

『Sランク探索者・剣崎氏「あれは深層の怪物すら凌駕する」とコメント』

 

 画面の中で踊る文字は、どれも大げさで、そして恐ろしいものばかりだった。

 ただのお小遣い稼ぎのつもりだったはずの配信が、国家規模の騒動になっている。

 リナはフードを深く被り直し、マスクで顔を覆った。

 

「叔父さん……!」

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは、いつも眠たげな目で店番をしている叔父、湊の顔だった。

 あの簪は、彼が「お守りだ」と言って持たせてくれたものだ。

 

 ただのガラクタだと思っていた。

 

 けれど、あの白い狐は確かにリナを守り、そして圧倒的な力を見せつけた。叔父さんは、何かを知っているはずだ。

 リナはマスコミや野次馬の気配を感じ取り、大通りを避けて路地裏へと飛び込んだ。


 薄暗い雑居ビルの隙間を縫い、ゴミ箱を飛び越え、慣れ親しんだ「近道」を全力で疾走する。

 心臓が早鐘を打ち、息が上がる。

 

 背後から、遠くサイレンの音が聞こえた気がした。

 やがて、古びた木造の店舗兼住宅が見えてくる。

 看板の文字は剥げかけ、『久遠堂』と辛うじて読めるその店は、喧騒渦巻く新宿の一角にありながら、そこだけ時が止まったような静寂に包まれていた。


 ガラララッ!!

 リナは勢いよく引き戸を開け放った。

 

「叔父さん!!!」

 

 店内に響き渡る絶叫。

 しかし、カウンターの奥からは、気の抜けるような声が返ってきた。

 

「……うるさいなあ。入り口の戸は静かに開けろって、いつも言ってるだろ」

 

 店主の湊は、あくびを噛み殺しながら文庫本を読んでいた。

 ボサボサの寝癖頭に、着古した甚平姿。

 外の世界が自分の店のせいで大騒ぎになっていることなど、露ほども知らないような態度だ。

 リナはカウンターに詰め寄り、両手を叩きつけた。

 

「静かに開けてる場合じゃないよ! 大変なことになってるんだよ!?」

 

「あー……配信? ミスって炎上でもしたか? ま、ネットの悪口なんざ三日寝れば忘れるさ」

 

「違う! 逆! ……いや、炎上は炎上なんだけど!」

 

 リナは言葉を詰まらせながら、自分の頭を指差した。

 

「これ! この簪! さっきダンジョンですごいことになったの!」

 

「ん? ああ、似合ってるじゃないか」

 

「そうじゃなくて! なんか光って、白い狐が出てきて、化け物を一撃で消し飛ばしちゃったの! ネットじゃ『ロストテクノロジー』だとか『国家機密』だとか言われてるんだよ!?」

 

 必死にまくしたてるリナに対し、湊は「ふあ」と二度目のあくびをした。

 

「……なんだ、そんなことか」

 

「そんなこと!?」

 

「何って、そいつはお守り代わりの簪だよ。昔の品ってのは時折奇跡を起こすもんさ。いわゆる付喪神の一種だな。よくあるよくある」

 

 湊は極めて不自然な棒読みで言った。

 視線は文庫本から動いていないが、ページをめくる手がわずかに止まっているのをリナは見逃さなかった。

 

「あるわけないでしょ! 現代魔術の教授が『ありえない』って言ってるんだよ!? あんな狐、図鑑にも載ってないし!」

 

「ほーん。そりゃそうだろうね、あいつは魔術の産物じゃないし」

 

「え?」

 

「おっと、口が滑った」

 

 湊がわざとらしく口元を手で覆った、その時だった。

 

 カッ……!

 リナの黒髪に挿さっていた簪が、再び淡い光を放った。

 光の粒子が集束し、リナの肩の上に、ちょこんと「それ」が現れる。

 真っ白な毛並みに、黄金色の瞳。細長い身体をしなやかに動かす、管狐だ。

 

「わっ、また出た!」

 

 リナが驚く間もなく、管狐はカウンターの湊を見据えた。

 そして――。

 

 ヒュンッ!

 弾丸のような速度で湊の顔面へと突進した。

 

「ぶべっらッ!?」

 

 ドゴォッ、という鈍い音と共に、湊が椅子ごと後ろへひっくり返る。

 管狐は湊の顔面にへばりつき、その額に激しい頭突きを繰り返し、鼻先を甘噛みし始めた。

 

『キュウ! キュウ! キュキュッ!(お前! ずっと! 封印しやがって!)』

 

 言葉はわからないが、明らかに抗議している。

 それも、親愛の情を含んだ激しいスキンシップだ。

 

「い、痛い痛い! 悪かった! 悪かったって白雪! 長らく解いてやってなかったもんな、すまんて!」

 

 湊は顔を引きつらせながら、管狐――白雪の背中を撫でた。

 その手つきは、明らかに扱い慣れたものだった。

 リナは呆然とその光景を見下ろす。

 

「……叔父さん、その子の名前、知ってるんだ」

 

「あー……まあ、な」

 

 湊は観念したように溜息をつき、顔の上で暴れる管狐をひっぺがして、肩に乗せた。

 管狐は満足げに尻尾を振っている。

 

「こいつは管狐の白雪。昔、ちょっと縁があってな。気性が荒いのが玉に瑕だが、悪いやつじゃない」

 

「魔術じゃないって、どういうこと?」

 

「言葉通りの意味だ。こいつは式神……陰陽道の領分だ。現代の魔法使い共が知らんのも無理はない」

 

「陰陽道……?」

 

 リナが聞き返そうとした瞬間、湊の表情が変わった。

 いつもの眠たげな瞳が、鋭く入り口の方角を射抜く。

 

「……リナ」

 

「なに?」

 

「お前、ここに来るまで、誰かにつけられてなかったか?」

 

「えっ? い、一応撒いてきたつもりだけど……」

 

 湊が舌打ちをした。

 その直後、閉め切った店の外から、ザワザワとした喧騒が漏れ聞こえてきた。

 

「ここか? ここが『久遠堂』か?」

 

「住所は合ってるぞ!」

 

「配信つけろ! 突撃すんぞ!」

 

「すいませーん! リナちゃんいますかー!?」

 

 大勢の足音。

 興奮した話し声。

 シャッターを切る音。

 自撮り棒を持った配信者たちの、甲高い声。

 特定班によって場所を割り出された『久遠堂』に、ついに最初の「野次馬」たちが辿り着いたのだ。

 

「……チッ」

 

 湊は盛大に舌打ちをし、頭をガシガシと掻きむしった。

 

「最悪だ。俺の静かな隠居生活が……」

「叔父さん、どうしよう!?」

 

「どうしようもこうもあるか。……とりあえず、今日は店じまいだ」

 

 湊が重い腰を上げ、カウンターの奥から何かを取り出そうとしたその時、ドンドンドン! と激しく扉が叩かれた。

 静寂は破られた。

 世界を震撼させた「神回」の余波は、この小さな古道具屋を、世界の注目の中心へと押し上げようとしていた。




 ***********************************************************************************

 

 @Gossip_Hunter

 現在、特定された新宿の古道具屋「久遠堂」前に到着!

 すでに20人くらいの配信者が集まってるwww

 中から人の声するぞ! リナちゃんか!?


 @Majic_Univ_Official(魔術大学広報)

【重要】新宿ダンジョンにて確認された未確認術式について、本学より調査団を派遣することを決定しました。当該店舗周辺への無闇な立ち入りはお控えください。


 @RankS_Kenzaki(Sランク探索者・剣崎)

 場所わかったのか。

 俺も行く。あの狐について、どうしても聞きたいことがある。

 

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