第七章 灰の村
太陽がゆっくりと劇場の上に昇り、金色の光がジャガイモ畑を照らしていた。
何時間もの労働のあと、バンとハスターは息を切らせながら戻ってきた。
袋は塵と芋でずっしりと重く、
一歩一歩、数を数えながら進んでいた。
一歩でも多くは踏み出してはならない。
— 四百六十八……四百六十九……そして半分……
畑の柵を越えたとき、二人は安堵の息を漏らした。
家の前にはドラン師が待っており、鋭い眼差しをしながらも、珍しく穏やかな微笑を浮かべていた。
「よし、芋を屋根裏に置け。」
低い声でそう言うと、ドランは小さな袋を差し出した。
「これを持って、村へ行ってこい。少しは気晴らしも必要だ。」
驚いたバンが叫ぶ。
「おおっ、けちなドラン様からの恵みとは! 心の扉が開いた奇跡の日だな!」
沈黙が落ちた。
師の笑みが固まる。
「そうか、ならば半分でいいな。」
「えっ!? 冗談だってば!」
「罰もまた、冗談ではない。」
ハスターが吹き出したが、すぐにドランの視線を感じて口を閉じた。
「お前もだ。もう一度笑えば、お前の分も半分だ。」
二人は何も言わずにうなずいた。
しばらくして、彼らは軽い足取りで村への道を歩き出した。
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小道は畑のあいだを蛇のように曲がりくねり、
暖かい風が砂埃を舞い上げた。
やがて藁葺きの屋根が見え、空気にはパンと干し花の香りが漂ってきた。
広場では子どもたちが笑い、商人たちが値を叫んでいる。
ハスターは久しぶりに、心の底から安らぎを感じた。
二人は古い井戸のそばに腰を下ろし、静かな村の光景を眺めた。
その瞬間だけは、すべてが完璧に思えた。
そのとき、バンが夢見るような口調で言った。
「この村こそ、この劇場の本質を示しているんだ。」
ハスターが顔を向ける。
「どういう意味だ?」
バンは村人たちから目を離さず、微笑を浮かべた。
「時間が止まっている場所……永遠に同じことを繰り返す世界さ。
村人たちは歳を取らない。けれど、心だけが少しずつ壊れていく。
畑は果てしなく広がり、季節は変わらない。死さえも静止している。
――この劇場は、魂の停滞そのものだ。平和の幻影なんだよ。」
その言葉は風に乗り、空気の中に溶けた。
ハスターは何も言わずに沈黙した。
反論したかったが、言葉が見つからなかった。
彼もまた、バンの言葉が真実だと感じていた。
この村は穏やかすぎたのだ。
しばらくの沈黙のあと、バンが立ち上がった。
「さあ、せっかくだしもう少し歩こう。」
二人は村の細い路地を歩き出した。
石畳がきしみ、空気には小麦粉と湿った土の匂いが漂っていた。
すれ違う顔は、どれもどこか見覚えがある――いや、全員が同じような表情をしている。
同じ笑み、同じ声、同じ挨拶。
ハスターが小声で囁いた。
「まるで、俺たちのことを前から知ってるみたいだな。」
「当然さ。」バンは答える。
「ここでは、みんながみんなを知っている。そして、みんながみんなを忘れるんだ。」
灰色の髭を生やした老人が、ガラスのように輝く赤いリンゴを差し出した。
少し離れた場所では、空虚な瞳の少女が乾いた花を手渡してきた。
「何度引き抜いても、また咲くの。」
バンは礼を言ったが、振り返ったときには少女の姿はもうなかった。
風が吹き始める。
広場の中央には、大きな時計塔がそびえていた。
針は止まったまま――十二時。
それがいつからなのか、誰にもわからない。
「見ろ。」バンが低く言った。
「この村では、時間は“望むとき”にしか動かない。
生きているようで、生きていないんだ。」
ハスターは答えなかった。
針を見つめるうちに、一瞬だけそれが動いた気がした――気のせいだったのかもしれない。
午後のあいだ、二人は村を歩き回り、奇妙な光景を目にした。
行き止まりにある壁の向こうの扉。
誰もいない路地から響く笑い声。
動きとずれた影。
それでも村は静かで、穏やかだった。
夕日が沈むころ、二人は家への道を戻った。
畑は橙色の光に包まれ、夢のように揺れている。
ドランは玄関の前で腕を組み、彼らを待っていた。
「どうだ? 自由を楽しめたか?」
「はい、師匠!」 二人は声をそろえた。
老人は微かにうなずき、笑みは見せなかった。
「よし。休め。明日になれば、この劇場で“働く”ということの意味がわかるだろう。」
二人は意味がわからぬまま頷いた。
扉が閉まると、ドランはひとり残された。
夜の静寂が広がる。
風が止まった。
そのとき、一羽のカラスが窓辺に舞い降りた。
くちばしには、淡い黄色の封印が押された手紙がくわえられている。
ドランは眉をひそめ、その手紙を取り上げ、長く見つめた。
唇の端に、微かな笑みが浮かぶ。
「……どうやら、動き出したか。」
風が再び吹き、家の中の蝋燭が揺らめいた。




