第35話 : 「それでも、生きろ」
それでも、生きろ**
現在へ
ドリームシティを見下ろす巨大な城の中。
長い回廊を、一人の少女が小さな歌を口ずさみながら歩いていた。
???
「もうすぐ私の誕生日……
その日に、眠れる王子様は目を覚ますの」
彼女は一つの扉の前で立ち止まった。
そこには一人の衛兵が立っている。
衛兵
「こんばんは、アカネ殿下」
アカネは少し頬を赤らめて尋ねた。
アカネ
「……まだ、眠ったまま?」
衛兵
「はい。しかし、陛下の命により、直接の接触は禁止されています」
アカネ
「父上、父上って……もううんざりよ。
せめて、見るだけでもいいでしょう?」
衛兵は一瞬ためらい、ため息をついた。
衛兵
「……一分だけです」
扉が開かれる。
そこには広大な寝室があった。
天蓋付きの大きなベッド。
幾重にも垂れ下がる薄いヴェール。
その中央で、一人の青年が静かに眠っていた。
――ラスタバン。
アカネはそっと近づき、微笑む。
アカネ
「……やっぱり、綺麗」
眠っているラスタバンの唇が、かすかに動いた。
ラスタバン(寝言)
「……耐えろ、ハストゥル……
死ぬな……
ベンケイ……」
アカネはくすっと笑った。
アカネ
「寝言まで可愛いんだから……
前はずっと『十二年前……』って呟いてたわね」
彼女は衛兵を振り返る。
アカネ
「夢の砂の効果は、いつ切れるの?」
衛兵
「……明日には、薄れるはずです」
アカネ
「明日!? 早すぎるわ!
私の十六歳の誕生日、その日に目覚めてもらわなきゃ困るの」
衛兵
「ですが……殿下のお父上が――」
アカネは鋭い視線を向けた。
アカネ
「私が誰か、分からないの?
私は“砂の商人”の娘よ。
父と同じ権限があるわ」
衛兵
「……承知しました」
満足そうに、アカネは踵を返す。
アカネ
「完璧ね」
エンズキー ― エファの側
一方その頃。
エンズキーの片隅で、エファとハーヴィーは腰を下ろして話していた。
エファ
「……可哀想な、アラタ。
助けてあげたいのに……どうすればいいの」
ハーヴィー
「彼は、ペレリアで起きた列車爆発の責任を
すべて自分のせいだと思い込んでいる」
エファ
「……でも、違うの?」
ハーヴィー
「真の犯人は“ヴァッサル”だ」
エファ
「ヴァッサル……?」
ハーヴィー
「王の次に位置する五人の最高権力者。
それぞれが、劇場国家の首都を治めている」
リノ
「ええええっ!?」
ハーヴィー
「彼らは功績でも身分でもなく、
ただ“黄衣の王”に選ばれただけの存在だ」
彼は声を潜めた。
ハーヴィー
「私が仕えるヴァッサルは、
名前も顔も明かしたことがない。
王から授かった“本”によって、
自分の夢を現実にする力を持っている」
エファ
「……夢を、現実に?」
ハーヴィー
「ただし条件がある。
彼が“それをゲームだと認識した時”にしか力は発動しない」
ハーヴィー
「しかも、
『自分が勝つ』と直接書くことはできない。
せいぜい――
『相手がグーを出すと思い込ませる』程度だ」
エファ
「……つまり」
ハーヴィー
「アラタは何もしていない。
列車が爆発したのは、本に書かれた結果だ」
エファ
「……じゃあ……
ハストゥルとラスタバンは……」
ハーヴィー
「生きている可能性が高い」
そう言い残し、彼は立ち上がった。
ハーヴィー
「休憩は終わりだ。戻るよ」
ハーヴィーが去った後、
エファは静かにアラタの隣に座った。
アラタ
「……俺が全部壊した……
手を差し伸べてくれた人たちを、俺が……」
エファはゆっくりと語り始める。
エファ
「……私もね、
昔、同じように思ってた」
――十二年前。
ペレリアへの大移動の後。
父はアニマに侵され、重い病に倒れた。
母は働き詰めになり、心を壊していった。
酒に溺れ、泣きながら私を罵った。
「あなたは私たちの子じゃない」
医者は言った。
もっと強い薬が必要だと。
でも――高すぎた。
だから私は働いた。
裁縫、野菜売り、花屋の見習い。
ある日、花屋の主人が言った。
花屋
「よく働いたな。
好きな花を選びなさい」
私が選んだのは、黄金色に輝く花。
花屋
「それはカルコサのハリ湖に咲く花だ。
良い選択だよ」
その夜、私は父の枕元に花を置いた。
でも――
母は泣き叫んだ。
「その花はアニマの塊なのよ!
あなたが……あなたが殺したのよ!!」
父は、もう息をしていなかった。
私は家を追い出され、
やがて奴隷商に売られた。
逃げ出してからは、
ずっと一人で生きてきた。
エファは、静かに微笑んだ。
エファ
「それでもね……
私は生きてる」
アラタは、初めて彼女を見た。
エファ
「苦しくても、
泣いても、
間違えても……」
エファ
「それでも、生きるの」
彼女は立ち上がる。
エファ
「私は二人を探す。
あなたは……生きて」
アラタ
「……生きる……」
――作者コメント――
物語を読んでくださりありがとうございます。
少しでも心に残ったなら、
★やコメントで応援していただけると嬉しいです
Netcon 14参加中です




