第31話 紫紺(しこん)と翡翠(ひすい)
ベンケイはいつものように、大剣を静かに磨いていた。
背後で響く二人の苦痛の声にも、彼の表情は微動だにしない。
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■ ハストゥル側
ハストゥルは木の上から転げ落ち、全身に力が入らず、地面に倒れ込んだ。
ハストゥル「やめてくれ……! 頭が割れそうだ!!」
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■ バン側
バンもまた、激しい痛みによって起き上がることすらできなかった。
ベンケイ「すまないが、私は手を出せん。
アニマは“寄生する力”だ。
お前たちがそれを感じ取り、支配しようとした瞬間に、逆にアニマが先にお前たちを押さえつけようとしているだけだ。」
ハストゥル「お願いだ! 助けてくれ!!」
ベンケイ「助言できるのは一つだけだ。
――“どんな時でも隙を見せるな”。
眠っている間でさえ、痛みに呑まれるんじゃない。」
こうして、第二段階の修行が始まった。
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■ ハストゥル側
ハストゥルは荒く息を吐きながら地面に伏し、体中が強張り、目は白く濁って焦点を失っていた。
ハストゥル「苦しい……でも……戦わなきゃ……!」
立ち上がろうとしても、すぐ膝が折れ、倒れ込んでしまう。
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■ バン側
バンは自分の体の歪むような感覚に顔をしかめながらも、
なぜか獣のような笑みを浮かべた。
バン「アニマなんかに支配されてたまるか。
今日も、これから先も――絶対にな!」
灰色のオーラを拳へと収束させたバンは、自らの額へ拳を打ち込む。
最初はゆっくり。
しかし次第に速度は増し、拳の動きが見えなくなるほどだった。
彼のオーラは、徐々に紫紺へと染まっていく。
その変化に気づいたベンケイは、驚きながらも口元に僅かな笑みを浮かべた。
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■ ハストゥル側(再)
ハストゥル「バンは“戦って”アニマを抑えようとしてる……。
でも僕は……。」
するとベンケイの声が、トンボの伝声器を通して響いた。
ベンケイ「真似をする必要はない。
戦うだけが手段ではない。」
ハストゥル「戦うだけが……答えじゃない……。」
ハストゥルはゆっくりと全身の力を抜き、深く息を吸い込んだ。
アニマは体内で暴れ続けるが、彼は微動だにせず、その存在を受け止める。
ハストゥル(戦えないなら……受け入れる。
飲まれるのではなく――同化する。)
呼吸に合わせて灰色のオーラが口から淡く漏れ出し、
やがてその光は金と翡翠色へと変化した。
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■ 六日後の夜
二人の体を苛んでいた痛みは、突然ふっと消えた。
そして二人とも、その場に倒れ込み、深い眠りへと落ちた。
ベンケイ
「よく耐えたな。
休め――
第三段階、最後の修行はすぐに始まる。」




