第30章 — アニマの最初の脈動
風の音と、五条橋のそばに咲く桜の花びらが揺れる音が混ざり合い、どこか心を落ち着かせる響きを生み出していた。
そのころ——
気を失っていたラスタバンは、夢を見ていた。
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小さな部屋。
体はまったく動かず、隣では疲れ果てた女性が眠っている。
突然、扉が叩かれた。
姿を見せたのは、奇妙な男。
その顔は影に覆われ、背は高いが体つきは普通――何より、ラスタバンは言葉を発しようとしても、まるで歯が存在しないかのように言葉がこぼれ落ちてしまう。
男は静かに女性へ手を置くと、次の瞬間、ラスタバンの喉を締めつけた。
涙を流しながら、男は繰り返す。
「……すまない……仕方なかった……
お前は……“間違い”なんだ……
あいつのために……責任を取らなければならない……!」
息が途切れ、視界が暗く染まっていく。
ラスタバンはゆっくりと瞳を閉じ――
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「バン!!」
その叫びで、ラスタバンは飛び起きた。
頬には一筋の涙。
「……夢、だったのか……」
そのとき、トンボ型送信機から声が流れる。
『バン! いったい何があったんだ!?
もう千回くらい呼んだぞ! もう夜だぞ!!』
「ごめん……ベンケイの一撃で、気絶してたみたいだ。」
『少なくとも、お前は安全だろう……
俺なんて木の中に隠れて一晩を過ごしてるんだぞ……!』
土の地面を叩く重い音がした。
ベンケイが槍を地面に突き立てたのだ。
「ようやく二人とも集中できたようだな。
では“アニマ”について説明してやろう。」
ベンケイは静かに語り始めた。
「この世界を満たすその力は、ただ一つの源から発している。
体内に入り込んだアニマは、寄生虫のように馴染み、
やがて“アニマ量”となって蓄積される。
だが気をつけろ。
アニマに飲まれれば、お前たちの心は崩壊する。
だが――逆に、アニマを従える者もいる。
あの巨大なアニマの奔流の中で生き残り、しかも正気を保っている。
つまり……お前たちはアニマに“選ばれた”ということだ。」
ベンケイは槍を肩に担ぎ、言った。
「さて、説明はここまでだ。
次は“実践”だ。」
「感じろ。
お前たちの血管の中を流れる気配を。
風が髪を撫でるように、長い旅の疲労を思い出すように……
アニマは必ずそこにいる。」
二人の少年は深く集中し——
その体に、初めて“新しい気配”が蠢き始めた。
灰色のオーラが、彼らの身体を薄く包んでいく。
「……見えなくとも、ハストゥル。
お前のアニマは確かに感じる。
このまま極めろ。
アニマと一体となるまで……」
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■一日目
ハストゥルは微動だにせず、まるで自分の内側を旅しているかのように静かに座っていた。
ラスタバンもまた、地面に正座し、意識を一点に集中させていた。
彼らは食事と睡眠以外、ほとんどの時間を瞑想に費やした。
そして——
六日目。
「……身体の奥に流れているのが分かる……
すごく、滑らかだ……」
「俺もだ……前より力が湧いてくる……
この調子なら――」
だが次の瞬間、二人同時に倒れ込み、激しく吐き出した。
「ぐあああああああ!!」
「う、うあああああ!!」
「頭が……! 割れるっ……!!」
ベンケイは、わずかに口角を上げた。
「――さぁ、第二段階だ。
“内なる支配”の戦いに、勝ってみせろ。」




