エピソード 2: ささやきと頭の話
冷たい風が、大地のひび割れの中をすり抜けていった。
少年は、自分がどこにいるのか分からないまま歩き続けていた。
病んだような灰色の空には、上も下もなかった――ただ渦を巻く空虚だけが、彼の頭上に広がっていた。
一歩、また一歩。
足音はまるで前の音をなぞるように響いた。
どれほど歩いたのか、もう覚えていない。
だが――囁きは消えなかった。
それらは彼のまわりを絡みつき、導き手の声、母の声、そして自分自身の声までもが混じり合っていた。
壊れた記憶のカコフォニー。
> 「……どうして、まだここにいるんだ?」
彼の声は震えていた。
誰も答えなかった。
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すると突然、別の声が響いた。
> 「この畑に忍び込んだジャガイモ泥棒は誰だ?!」
少年は固まった。
息が止まる。
乾いた土の塊の陰に隠れ、震えながら指を土に食い込ませた。
足音が近づく。
ゆっくりと。
規則的に。
草を踏む音が一つ一つ、重く、近くに響いた。
> 「二百三十一……二百三十二……二百三十三……」
単調な童歌のような声。
奇妙に穏やかだった。
二百三十五まで数えたとき、影が彼の上を横切った。
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パシンッ。
棒が彼の頭を打った。
少年は叫んだ。
だがその叫びは、別の音と混ざった――
ぐちゃり、と、内側から何かが裂けるような音。
彼の頭から、細く半透明のものが這い出した。
それはねじれながら、羽ばたいた。
トンボのようだった……だが、正確には違った。
その目は無数にあり、絶えず動き、人間のようにも見えた。
それは音もなく飛び去り、灰色の光の尾を引いた。
その瞬間――
囁きは、消えた。
沈黙が訪れた。
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少年を殴ったもう一人の子供は、しばらく動かなかった。
奇妙な金色の瞳で、恐れではなく好奇心のような光を浮かべて彼を見つめていた。
やがて、その子は笑い出した。
> 「ははっ! 本当にジャガイモ泥棒かと思ったよ!」
「ごめん、ごめん。ちょっと強く叩きすぎたかも。」
震える少年は、ゆっくりと顔を上げた。
相手の顔は幼いが、その笑みにはどこか不気味な静けさがあった。
> 「ここ……どこなんだ?」
少年が尋ねると、金色の瞳の子は平然と答えた。
> 「ここ? ここは“不変の劇場”だよ。」
「“黄色い王の王国”の南西にある。」
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風が吹き、灰色の草原が波のように揺れた。
草の一本一本が、祈りか嘆きのような声でざわめいている。
> 「ここはドラン様の土地なんだ。出たければ、正確に四百六十九歩半、歩くんだ。」
「あ、自己紹介してなかったね。俺はラスタバン。君は?」
少年は目を伏せた。
唇が動いたが、声にはならなかった。
> 「僕は……もう、分からない。」
ラスタバンは首をかしげ、笑みを不思議な表情に変えた。
> 「分からない? じゃあ君、ここにいるべきじゃないのかもね。」
彼は再び笑った。
だが今度の笑いは、人間のものではなかった。
まるで“何か”が、彼を通して笑っているようだった。
風が止んだ。
沈黙の中で、草の茎たちが勝手に動き出た。
まるで、地の下で“何か”が目を覚ましたかのように。




