第16章 黄衣の王の光
沈黙が、戦場の廃墟に重く降りかかった。
舞い上がった塵がゆっくりと落ち、氷の破片と燃え残る炎が混じり合う。
Rastabanは荒い息をつき、マントは破れ、拳はまだ震えていた。
その前で、Harveyは膝をついたまま意識を失い、ひび割れた氷の檻に閉じ込められていた。
「……終わりだ」
Rastabanの声が、冷たい風の中に低く響いた。
黄色いフードをかぶった男が静かに近づき、無言で周囲を見渡す。
その目は穏やかでありながら、どこか光を宿していた。
「こちらへ」
彼は瓦礫の一部をどかし、下に隠されていた金属のハッチを露わにした。
冷たい霧がそこから漏れ出す。
ArataはEfaを支えながら、迷わずその穴の中へと入っていった。
金属の軋む音が、長い溜息のように響く。
地下へ降りると、薄暗い通路が続いていた。
壁に取り付けられた即席の松明が、揺れる影を作っている。
Rastabanが後に続き、そして黄色いフードの男が静かに降り立った。
「ずいぶんやられたな、Ban」
その男が、皮肉と心配の入り混じった声で言った。
Rastabanは口元の血を拭いながら、苦笑した。
「ああ……あの氷野郎、容赦なかった」
フードの男は肩に手を置く。
「まだ立っていられるなら、終わっちゃいない」
上方から地鳴りと共に、兵士たちの声が近づいてくる。
「急ごう」
「衛兵が来る前にな」
フードの男――Hasturはそう言って、顔を隠すようにフードを深くかぶり、前を歩き出した。
ArataとEfaが続き、Rastabanが最後尾を守る。
通路はどこまでも深く続き、地上の光はもう届かない。
湿った石の床に足音だけが響く。
天井からは雫が滴り、錆と土の匂いが漂っていた。
だがその奥には、何か古く、眠れる気配があった。
やがてArataが沈黙を破る。
「あんた……誰なんだ?
俺たちに何の用がある?」
Hasturはすぐには答えなかった。
足音だけが静かに響く。
そして、わずかに首を傾けて言った。
「今はまだ名乗る必要はない。
ただ、迷える者たちを見守る者だと思ってくれ」
Arataは眉をひそめる。
だがその瞬間、彼の目にあの光景がよみがえった。
上で見た、世界を止めたような黄金の光。
「あの時の光……あれはいったい何だったんだ?
魔法、だろ?
俺にもできるようになるのか?」
問いに、沈黙が返る。
遠くで石が崩れる音がした。
Rastabanが小さく笑う。
「お前ってやつは……死にかけても夢見がちな奴だな」
だがHasturは、歩みを止めた。
フードの奥から、黄金の瞳がわずかに覗く。
「魔法、か。
それはもう過去の言葉だ。
あの光はAnima。
そしてそれは、学ぶものではない。
お前を“選ぶ”ものだ」
冷たい風が通路を吹き抜けた。
Arataは息を呑み、その言葉を反芻する。
すると、壁際に置かれた古い灯が、突如として金色の炎を灯した。
その炎は熱を持たず、影を生まなかった。
Hasturは静かにその前に立ち、手をかざす。
「お前たちは真実を知りたいのだろう?
ならば聞け。
そして忘れるな。
すべては、一つの光から始まった」
炎が揺れ、空間に幻のような映像が浮かぶ。
黄金の宮殿。
空に裂ける王座。
そして、世界を覆う光。
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【起源】
「何千年も前、最初の再誕の時代。
王宮から、黄金の波が放たれた。
それは爆発ではなく、誕生だった」
黄衣の王。
理性の外側に存在するその王は、自らの生命の欠片を世界に放った。
光は山々を越え、海を渡り、国々を呑み込んだ。
太陽すら、その日ばかりは色を失ったという。
そしてすべてが静まった時、世界は黄金に満たされた。
それがAnimaの光だ。
「それは、生きた波だった」
Efaが小さく呟く。
「そうだ」
Hasturが頷く。
「その波は意思を持っていた。
石にも、獣にも、人にも染み渡った。
今や、誰一人としてその光なくしては生きられない」
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【真の性質】
「だが勘違いするな」
Hasturの声が低く響く。
「Animaは祝福ではない。
支配だ。
その一片ごとに、王の意志が宿っている。
人がそれを使うたびに、王はその心を喰う」
彼はArataをまっすぐ見つめた。
「使っているのはお前じゃない。
お前を使っているのは、Animaだ」
重い沈黙が落ちた。
Rastabanでさえ、視線をそらす。
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【構造】
「Animaは持ち主の心によって姿を変える。
穏やかな魂には癒しを、
乱れた心には破壊をもたらす。
感情に支配されるほど、王はその者を縛る。
そして、いずれその身体を通して現れる」
「じゃあ、使う者は……いずれ王の操り人形に?」
Efaの声が震える。
「その通りだ」
Rastabanが低く答えた。
「……俺は、その結末を見た」
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【エコーの継承者】
Hasturは指で印を描き、光を放つ。
空間に黄金の影が浮かぶ。
Harvey、Rastaban、そしてHastur自身。
「俺たちはエコーの継承者と呼ばれている。
光に触れた地で生まれ、
王の記憶の欠片を宿した者たちだ」
「じゃあ、お前たちは……王と繋がってるのか?」
Arataが尋ねる。
「そうだ。
それが俺たちの呪いだ。
成長するほど、王に近づいていく。
やがて黄変。
肉も心も光に侵され、人ではなくなる」
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【劇場について】
「劇場とは、王の力が満ちた領域だ。
現実すら、そこでは王の意志によってねじ曲がる。
各劇場の主、副王がその力を借りて世界を支配している。
この世界そのものが、黄金の檻に過ぎない」
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【RastabanとHarvey】
HasturはRastabanを見た。
「Ban……お前は少し違う。
お前のAnimaは王の法則に従わない。
お前は反響の逆相。
王の意志を跳ね返す存在だ」
「……そしてHarveyはその正反対だ」
Rastabanが応じる。
「あいつの氷は冷たさじゃない。
秩序そのものだ。
世界を永遠の沈黙に閉じ込めようとする、
王の意志の化身だ」
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「だが、抗う者もいる」
Hasturの瞳が暗闇に輝く。
「俺も、Banも……
Animaに魂を奪われずに使う術を見つけた。
だが忘れるな。
王の光を追い求める者は、
必ずその光に焼かれる」
炎がゆらめき、そして静かに消えた。
沈黙が戻る。
Arataは拳を握りしめ、呟いた。
「……この力は、
武器でもあり、呪いでもあるんだな」
Hasturは静かに頷いた。
「ようこそ――真の劇場へ」




