天才の「裏技」 (The Prodigy's "Cheat Code")
元素魔法の才能が皆無であるという残酷な現実に打ちのめされた翔だったが、彼は諦めなかった。ゲーマーの魂は、いつだって攻略法を探し出すものだ。
「そういえば、」彼はベッドから跳ね起きた。「このゲーム……いや、この世界には、『念動力』みたいな補助魔法はなかったか?」
彼は再び書庫に潜り、今度は補助魔法の項目を血眼になって探した。そして、ついに一つの魔法を見つけ出す。
【物体浮遊】
対象の質量と魔力抵抗に依存するが、術者の意思で物体を僅かに浮かせ、動かすことができる。戦闘への応用はほぼ不可能とされ、主に荷物運びや曲芸師が用いる初歩の魔法。
「これだ!」翔は確信した。「攻撃魔法がダメなら、間接的に攻撃すればいい!」
翌日の剣術訓練の時間。対練相手は、領内の騎士団で一番の若手有望株、マルコだった。彼はアレン(翔)の最近の怠慢ぶりに不満を抱いており、今日こそその鼻っ柱をへし折ってやろうと意気込んでいた。
「アレン様、参ります!」マルコが鋭い突きを繰り出す。
翔は、記憶の中の「本物のアレン」なら余裕で避けて反撃できるであろうその一撃を、なんとか木剣で受け止めるのが精一杯だった。彼の剣術の腕は、悲しいかな、平凡そのものだったのだ。
「どうしたのですか、アレン様!その程度ですか!」マルコが畳み掛ける。
翔は防戦一方で、じりじりと後退させられる。観衆からも、「あのアレン様が押されているぞ?」という囁きが聞こえ始めた。
(くそっ、やっぱり正面からの斬り合いは性に合わん!)
翔は内心で悪態をつきながら、勝負に出ることを決めた。彼はマルコの猛攻をいなしながら、意識の片隅で、もう一つの命令を出す。
彼の背後、地面に落ちていた予備の木剣に、彼は【物体浮遊】を発動させたのだ。
木剣が、誰にも気づかれずに、ふわりと宙に浮いた。
マルコは、翔を壁際に追い詰め、勝利を確信した。彼は渾身の力で、木剣を振り下ろす。
「終わりです、アレン様!」
その瞬間、翔はわざとらしくバランスを崩して叫んだ。「うわっ!足がもつれた!」
マルコの意識が、一瞬だけ翔の足元に向いた。
その隙を、翔は見逃さない。
(——行けっ!)
宙に浮いていた予備の木剣が、まるで透明な手で操られるかのように、マルコの背後から、彼の足首を痛打した!
「ぐあっ!?」
マルコは予期せぬ衝撃に体勢を崩し、その振り下ろした一撃は大きく的を外れた。
その隙を、翔は見逃さなかった。彼は体勢を立て直し、がら空きになったマルコの胴体に、自分の木剣をぴたりと当てた。
「……そこまで!」
審判役の騎士団長が、呆気に取られた顔で試合終了を告げた。
観衆は、一瞬の静寂の後、爆発的な喝采に包まれた。
「見たか!?今のアレン様の動き!」
「まるで背後にも目がついているかのようだ!」
「あれがクリストファー家秘伝の剣技なのか……!」
翔は、内心で冷や汗をだらだら流しながら、勝者の笑みを浮かべた。
こうして、彼は誰にも気づかれずに、一つの結論にたどり着いた。
——この世界、剣術の才能がなくても、「裏技」さえあれば天才になれる、と。




