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魔法使いになりたい! (I Wanna be a Mage!)

「勇者」。その言葉の響きは、普通ならどんな少年をも熱狂させるだろう。だが、佐藤翔の心には、ほんの僅かな興奮も湧き上がらなかった。

(勇者?それってつまり、最前線で剣を振り回して、泥と血にまみれるタンク兼近接DPSってことだろ?冗談じゃない。怪我は痛いし、訓練は面倒だ。異世界に来たからには、後方からクールに魔法をぶっ放す、派手で安全な魔法使いになるのがセオリーってもんだろ!)

彼のゲーマーとしての魂が、勇者という「職業ジョブ」を全力で拒絶していた。

それからの数週間、クリストファー騎士家の人間たちは首を傾げることになった。百年ぶりの天才、未来の勇者と謳われたあのアレン坊ちゃまが、突然、剣術の訓練に全く身を入れなくなったのだ。

朝の素振りは欠伸を噛み殺しながら最低限の回数をこなすだけ。父である領主との模擬戦では、圧倒的な身体能力フィジカルがあるにも関わらず、どこか上の空で、わざと負けているとしか思えないような戦いぶり。

その代わり、彼は屋敷の書庫に籠もるようになった。騎士道物語や戦術書には目もくれず、彼が夢中になって読み耽っているのは、埃をかぶった魔法の入門書や、古代のルーン文字に関する古文書ばかりだった。

「これだ!これだよ!」ある晩、翔は自室で一冊の古文書を片手に、声を潜めて興奮していた。彼が読んでいたのは、元素魔法の基礎理論について書かれたページだった。「やっぱり火球ファイアボールだよな!全てのファンタジーの基本にして頂点!これをマスターすれば、俺も晴れて魔法使いデビューだ!」

彼は書物の挿絵にあった、滑稽なほど複雑な印の組み方を真似て、指を絡ませた。そして、魔力を集中させるイメージで、精神を研ぎ澄ます。

「出でよ、我が力の根源!赤き焔の精霊よ、我が呼び声に応え、その姿を現せ!ファイアボール!」

翔は渾身の力で詠唱した。

しかし、彼の掌から現れたのは、燃え盛る火の玉ではなかった。

——ぽすっ。

小さな、本当に小さな、まるで蝋燭の火を吹き消した時のような、か細い煙が上がっただけだった。

「…………は?」

何度やっても結果は同じだった。氷のアイスアローを撃とうとすれば指先が少し冷たくなり、風のウィンドカッターを放とうとすれば僅かな隙間風が吹くだけ。

「嘘だろ……この身体、魔法の才能、皆無かよ!」

翔はベッドに倒れ込み、大の字になった。最高の身体アバターを手に入れたと思ったのに、まさかの初期ステータスが「INT 1」だったとは。彼の魔法使いになるという夢は、開始早々、絶望的な壁にぶち当たっていた。


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