泥中の魂 (A Soul in the Mud)
冷気が、まるで濡れた死装束のように、アレンの顔に纏わりついていた。
彼が意識を取り戻したのは、激しい咳き込みがきっかけだった。肺が灼けるように痛み、まるで錆と泥が混じった氷水を流し込まれたかのようだ。彼は勢いよく目を見開いたが、そこに映ったのは魔王城の崩れ落ちた穹窿ではなく、灰色の、抑圧的な空だった。
「俺は……生きているのか?」
その考えは一秒と持たず、全身が砕け散るかのような激痛に取って代わられた。彼はもがくように身を起こそうとしたが、自分の四肢が驚くほど弱々しく、動かすたびに骨が軋む悲鳴を上げるのを感じた。なんとか上半身を支え、辺りを見回す。
そこは、戦争に蹂躙された焦土だった。折れた旗印、砕けた武具、そして無残な死体が、地獄のような絵図を織りなしていた。空気には、土の匂い、腐敗した血肉の匂い、そして武具が打ち合った後の鉄錆の匂いが混じり合い、彼のよく知る、戦争の匂いが満ちていた。
ここは……ヘルンブルク平原。三年前、俺が「勇者」の称号を授かって初めて参加した大規模な戦闘があった場所だ。
記憶が、洪水のように押し寄せる。彼は戻ってきたのだ。あの時の無念の意志が、本当に時間を逆行させたのだ。
彼はよろめ-めきながら立ち上がり、比較的綺麗な水たまりまで歩いていき、傷を癒すために最も基本的な治癒術を施そうとした。精神を集中させ、体内の聖なる力を呼び起こそうとした……しかし、彼の身体の中は空っぽで、まるでとうに涸れた井戸のように、ほんの僅かな聖光すら感じ取れなかった。
「どういうことだ?俺の力は……」
不吉な予感が胸に込み上げ、彼は震える視線を水中の倒影に向けた。
水面には、一枚の顔が映っていた。それは十七、八歳ほどの、見慣れない平凡な顔つきで、乱れた茶色の短髪が額に張り付き、左頬には新しくできた、深くて醜い傷跡があった。
それは彼ではなかった。
詩人たちに「太陽の子」と讃えられ、万民に敬愛された、光の勇者アレン・クリストファーの顔ではなかった。
「違う……違う!!」
獣の咆哮のような、しかし力ない嗄れた声が彼の喉から絞り出された。彼は狂ったように自分の顔に触れるが、その感触はあまりにリアルだ。さらに彼はぼろぼろの革鎧をむしり取るように引き裂いたが、そこに見えたのは聖騎士団のミスリル製インナーではなく、最下級の兵士が着る、ごわごわの亜麻布の服だった。
彼は戻ってきた。
しかし、名もなき一人の兵士の身体に。
彼は誇りとしていた全てを失ったのだ——力も、身分も、身体も、そして名前さえも。
氷のように冷たい絶望が、彼の魂を底なしの沼の底へと引きずり込んでいくようだった




