「終焉は始まり (The End is the Beginning)」
ていた魔王ヴォロックの咆哮が、ついに雷鳴と豪雨の中に掻き消された。
冷たい雨水が、玉座の間の砕けた穹窿から滝のように流れ込み、床に凝固した竜の血と瓦礫を洗い流していく。燃え盛っ魔性の炎は一つ一つ鎮火され、後に残ったのは、ただ咽せるような白い煙だけだった。空気中には、硫黄の匂い、黒炭の匂い、そして血の匂いが混じり合い、戦争の終結を象徴する、吐き気を催すような芳香を漂わせている。
光の勇者アレン・クリストファーは聖剣「暁光」を杖代わりに、地に片膝をつき、激しく喘いでいた。聖剣の金色の輝きはすでに色褪せ、彼の体内の聖力はとうに枯渇し、最後の最後、ただ意志の力だけで倒れずにいる。彼の目の前には、山のように巨大な旧魔王ヴォロックが横たわる。かつて不滅と謳われたその魔の身体は今や満身創痍で、胸の中心に開いた巨大な風穴からは、絶えず黒い血が溢れ出し、玉座の前の階段をぬかるみに変えていた。
「私達……勝ったのね……」若き神官のリリアンナは地にへたり込み、嬉しさのあまり涙を流した。
「終わったな、隊長」忠実な騎士のケイドンは半ばに折れた大盾に寄りかかり、疲労困憊の顔に、九死に一生を得た者の笑みを浮かべた。
アレンは仲間たちを見やり、微笑み返そうとした。数年続いたこの戦争も、ついに終わった。彼はやり遂げたのだ、全ての人々を守り抜いたのだ。
しかし、勝利の温もりが彼の疲れた魂を包み込もうとしたその瞬間、彼の全く無防備な背後から、骨の髄まで凍るような鋭い痛みが突き抜けた。
それは魔王の爪よりも鋭く、深淵の魔炎よりも灼熱の痛覚だった。その一撃は瞬時に彼の身体を貫き、彼の信念をも打ち砕いた。
アレンは困難に、一寸、また一寸と、首を巡らした。
一本の短剣の先端が、彼の心臓がある場所の、聖なるミスリルの鎧をゆっくりと貫いていた。その刃には螺旋状の紫色の魔毒が塗られ、肉眼でも確認できるほどの速さで彼の聖力を蝕み、その命を分解していく。
その短剣の意匠……彼はあまりにもよく知っていた。それは三年前、彼の十八歳の誕生日の祝宴で、彼が自らの手で親友に贈った、緊急時の最後の護身用という名目の贈り物だった。
「な……ぜ……」
この世界で、この短剣を使い、彼が最も気を抜いた瞬間に、この角度から、この致命的な一撃を放てる人物は、ただ一人しかいない。
彼は最後の力を振り絞り、信じられない思いで硬直した首を、背後に向けた。
雨の幕の向こうに、見慣れた人影が静かに立っていた。月光のような銀髪は雨に濡れてもなお塵一つなく、絵画のように美しいその顔には、彼が幾度となく見てきた、あの穏やかな微笑みが浮かんでいた。
ゼル・フォン・アストレイア。彼が最も信頼した親友、彼のために幾度となく勝利を計画した軍師が、まるで芸術品を鑑賞するかのような眼差しで、静かに彼を見つめていた。
「アレン様!」ケイドンとリリアンナの絶叫が、まるでどこか遠い異世界から聞こえてくるかのようだ。
「君の役目は、ここまでだ、アレン」ゼルの声は柔らかかったが、雷鳴よりも鮮明にアレンの鼓膜を貫いた。「君の光はあまりに眩しく、そして……あまりに純粋すぎる。この汚れた世界を救うのに、感情に縛られた英雄は必要ない」
彼は短剣を引き抜き、アレンが無力に前に崩れ落ちるのを見守った。聖剣「暁光」が手から滑り落ち、甲高い哀鳴を上げる。
「必要なのは、より効率的な『神』による洗浄だ」ゼルは屈み込み、アレンの顔から雨水を優しく拭った。その仕草は、まるで徹夜で戦術を語り合った、あの頃の親友のままだった。「そして君は、俺が玉座に就く前の、最も完璧な生贄だ。安らかに眠れ、俺の『唯一』の友よ。君の犠牲は、新世界の最も堅固な礎となるだろう」
アレンの視界は急速に広がる暗闇に覆われた。彼は仲間たちの絶望的な叫びを聞き、体温と共に命が失われていくのを感じる。しかし、意識が深淵に沈む最後の瞬間、彼の心にあったのは悲しみでも恐怖でもなく、ただ火山が噴火するかの如き、世界中を焼き尽くさんばかりの、怒りと無念だった。
もしもう一度やり直せるのなら……
もしもう一度機会があるのなら……
お前だけは、絶対に、信じない、ゼル!
魂を引き裂くほどのその強烈な意志が、まるで世界の禁忌のスイッチに触れたかのように、彼の存在そのものを、逆流する時間の渦の中へと投じたのだった。




