1 リリアム・リア・シュナという女
カーテンから差し込む眩い光に目を開ける。
いつもの肩凝りも、腰痛もなくなんていい日なんだと
ぼんやり思いながら体を起こす。
そして、私は違和感に気付く。
ここ何処よ?周りを見渡しても今まで住んでいた場所では無いのは明白なのだ。
きっとどれもが高級で今まで手に取ったことの無いような物ばかり。当たりを見回した所で私のものでは無いものばかりだ。
ベットから出ようとした時にふと気付いてしまった。
体縮んでない?4~5歳くらいの体か?いやまてまて、私35歳のおばちゃんだったよね?はい?
混乱しながら頭を抱え数分考えて出た答えは
「あー、腹減った」
まぁ夢ならそのうち覚めるわけで、取り敢えずお腹がすいて仕方ないのだ。
ベット近くのテーブルに高級そうなベルがあるのが見えた。鳴らしたら誰か来るのか?なんて考えながら
取り敢えず振ってみる。
すると、扉の向こうから牛でも走ってきたのかという勢いで誰かが走ってくるのが分かった。
「マリアか?お父様?それともお母様?」
ふとそう思った。なんでそう思ったのかと考えようとしたら激しい頭痛に襲われる。その時硝子が割れたようにこの体の今までの記憶と私本来の記憶が蘇る。
「お嬢様!!」
「「シュナ!!!」」
扉が半壊で開いたと思えば鼻水と涙でぐちゃぐちゃなメイドとお父様。そして聖母マリアかと思うくらいの美人か駆け寄ってくる。
おっさん顔きたねぇな。それが私リリアム・リア・シュナが最初に思った感想である。
お父様に体を揺さぶられ、メイドとお母様は大号泣
体を揺さぶられながら、蘇った記憶を多少整理する。
前世……というのか、私は35歳の社畜だった訳だが、帰宅途中に用水路に足を取られ頭から用水路にハマりぽっくり逝ってしまった。全くもってなんて阿呆な死に方なのかと呆れてしまう。まぁ不眠不休で働いていたのだ。
用水路に落ちるわなと納得はしてしまうわけで。
そしてこの体……というか前世を思い出す前のシュナという女は、もうどこに出しても恥ずかしくない程の我儘傲慢高飛車の三拍子が揃った小娘なのだ。そんな小娘は淑女マナーを学んでいる途中に癇癪を起こし、暴れた末、転倒頭をテーブルの角で殴打。そこからの記憶は無い。
「お母様、お父様、マリア。心配かけてごめんなさい。私は大丈夫よ。心配をお掛けしたようで……皆にも講師の先生にもご迷惑をおかけしたみたいで。」
と、とりあえず落ち着かせるように声をかける。まぁ大人の対応なわけだが、どう考えても癇癪を起こし暴れて頭を打つこの阿呆なリリアム・リア・シュナが悪いのだ。
その場に静寂が訪れる。
「ほ、本当にシュナなのかい?」
お父様もお母様もマリアでさえ、唖然としている
それもそうか悪癖三大盛りのシュナから出る言葉ではないわな。
「お父様?シュナをお忘れに?」
なんて小首を傾げて見せる。
お父様は頭がもげる勢いで頭を振り、いいや、私の可愛い天使を忘れるわけないだろうとうっとりしていた。
実に鬱陶しい限りこの上ない。おっと口が勝手に
そんなこんなで、倒れた後のことを聞かされた。
どうも4日程意識なく眠り続けていたらしい。
医師からも頭の外傷いがいは健康と言われたそうで
何故目が覚めないのかと不安でいっぱいだったそうな。
そりゃそうでしょうよ、我が子が4日間も眠り続ければ不安にならない親などあまりいないだろう。まぁ世の中には心配しない親もいるのだが、きっとこの親は違うのだなんせ、溺愛し過ぎて娘が悪癖三大盛りになるくらいなのだから。
親とメイドを落ち着かせた後、少し疲れたと伝え
部屋から出ていってもらう。正直一人になりたかった。
なんせ、煩いのだ特に父親。耳がもげる。
窓を少し開けると春の柔らかい風が部屋に入りなんだか少し落ち着く気がした。
「リリアム・リア・シュナ……か……どっかで聞いた名前」
そして私は急いで鏡を見た。赤紫の長い髪。薄ピンクの瞳に口元のホクロ。あ、これ詰んだじゃん。
私は項垂れる。前世で恋愛が面倒臭いという私に友人が勧めてきた恋愛ゲーム。そう乙女ゲーム時間が無い私はそのゲームを夜な夜なやっていた
『君の瞳に恋をした』
魔法と愛がなんちゃらでなんちゃらてキャッチコピーのゲームだ。
その中に同じ名前の同じ容姿の悪役令嬢がいたのだ。
そもそも、乙女ゲームは得意じゃないけど、勧められたらやるしかないというか、やらないと悪いよなって感じで進めていた。ゲームをやるより小説が好きだったのだけど、特に転生ものが好きだった私。でもね!私ファンタジーの冒険物が好きだったんだよ!恋愛物じゃないのよ!
と地団駄を踏んでももう遅い。転生してしまったのだ。
18歳の冬。断罪され、処刑される運命のリリアム・リア・シュナに。
まぁでも、中身は35歳なわけで、この阿呆みたいなシュナとは違うのだ。人をいびり、イジメる様な人間ではないのだから。18歳になるまでにフラグというフラグをへし折ってしまえばいい。それにこの体は優秀なのだ。
魔力、家柄、容姿は1級品なのだから。ようは人間性が破滅的に糞なだけでね。それでダメなら破滅する前にトンズラすればいいだけの話。
なに、簡単じゃない。社畜で築き上げられた不屈の精神があるし、恋愛も邪魔しなければいいだけの話だし。
ただ自身の恋愛には自信はない。前世では浮気男としか付き合った事しかないのだ。圧倒的に恋愛レベルは低い。それはもうこの際どうでもいいか。恋愛せずとも生きては行けるし。うん。
まず初めのミッションはそう!おおよそ1年後に来る婚約話を蹴ること。そこからだ。