6.この手で選んだ未来
よく晴れた日曜日の午後。朔也は墓地にいた。「望月家之墓」と彫られた墓石の前で、家族や親戚たちと並んで手を合わせる。その後ろでは、悠哉と稲岡が手を合わせていた。
今日は陽翔が納骨される日。本当はまだ手元に置いておきたい気持ちもあったが、誰でも気兼ねなくお参りできるようにしたいと、家族で話し合って決めた。
両親は未だに朔也が悠哉といるのを快く思っていない。けれども、髪型を整えて黒い礼服に身を包んできた悠哉を見ると、何も言えずにいた。
「俺が昨日、選んでやったんだぜ。似合ってるだろ?」
墓に向かって聞こえよがしに稲岡が言う。悠哉は「て、店長!」と顔を赤らめた。そんな気遣いに朔也は心が温かくなる。
両親が離れたところにいるのを見計らって、墓に語りかけた。
「陽翔、僕が悠哉さんを好きになっても……いいかな?」
肩に優しい重みがかかる。悠哉が、静かに寄り添ってくれていた。
「俺が見てるんだぜ」
と、稲岡が咳払いをする。二人は慌てて距離を取るが、どこか温かい空気が流れていた。
「僕、地元の大学に行くって決めたんです」
朔也がそう打ち明けると、悠哉は嬉しそうに目を細めた。
「高校を卒業した後もずっと一緒にいられるんだな」
けれども、すぐ真顔になって問いかける。
「本当に、それで良かったのかい?」
朔也は力強く頷く。
「初めて自分でそうしたいって思えたんです」
これまでは人の言うとおりにしか動けなかった自分。けれども今は違う。これからは自分の意思で何かを選んでみたい。かつての陽翔がそうだったように。
「きれいな目をしてるじゃないか」
稲岡が興味深そうに覗いてくるのを、悠哉は手で追い払った。
「それじゃ、お祝いしなきゃいけないな」
「まだ早いですよ。大学に合格してからです」
「いや、君が自分の意思で未来を決めたことを祝いたいんだ」
悠哉は自分のことのように喜ぶ。朔也は少しだけ首を傾げて
「また、海までタンデムしてくれますか?」
と頼んでみた。その仕草があまりに愛らしくて、悠哉の口元が綻ぶ。
「そんなの見せられたら、我慢できなくなるだろ」
なぜか稲岡が口走る。
「店長、俺の気持ちを代わりに言わないでください!」
慌てる悠哉に、朔也は噴き出してしまう。陽翔を囲んで自然と笑いの輪が広がった。