第3話 ルーレット上の悪魔たち [룰렛 위 악마들 ]
第3話 ルーレット上の悪魔たち
960年2月16日、カルセル帝国首都へ向かう道中の馬車の中には、
アルベレットとマルキオンの二人だけしかおらず、二人の姿は明瞭に異なっていた。
捕食者と被食者。アルベレットの手はロープで縛られ、頭を垂れたまま座っていた。
マルキオンは静かに座り、アルベレットを見つめていた。
やがて沈黙が破られ、マルキオンの質問が投げかけられた。
「お前は聞かないのか?」
「え…? 何を…?」
マルキオンの質問に、アルベレットは返した。
マルキオンは首を傾げ、緩んだ目で彼を見つめた。
「抵抗しないのか?」
「異端者だと肯定も否定もせず」
「普通はそうしないのに」
アルベレットは沈黙を貫いた。
彼は一切の抵抗を示さなかった。
理由は、彼が眺めたマルキオンが逃れられない男だと判断したからだった。
「なぜ…私が異端者として非難されなければならないのか…」
「それもよく聞かれる」
アルベレットは首を少し上げて尋ね、マルキオンは頷きながら足を組んで答えた。
「本当にそれだけ知りたいのか?なぜお前なのか?全部答えてやれるのに」
「お前でなくてもいいが、その村の司祭はお前だけだったから」
「だから私は告発するように言ったんだ」
アルベレットは悟った。
捕食者は悪意がないことを、彼の頭はさらに複雑になった。
自分の前にいるマルキオンの言葉の意図が、到底理解できなかった。
純粋に彼が何を望んでいるのか、自分が試されているのか、逃れる方法があるのか、
あらゆる考えが頭を巡った。
「あの… じゃあ… ただ異端者が必要だった…?」
慎重にアルベレットは尋ね、マルキオンは即座に答えた。
「そうだよ。上からの命令もあるし、報奨金もあるから」
「誰でもいいんだ」
「なぜ?馬車を回す?通報してもいい」
アルベレットはマルキオンの言葉に体が縮こまった。
マルキオンの言葉に、アルベレットは神父としての信念が試されているように感じた。
短い時間見たマルキオンの「誰でもいい」という言葉は、事実だと判断された。
しかし、自分が無実の人物を指し示して解放されるなら、
文字通り、これまでの信念が信仰が崩れることをすぐに悟った。
ルーレットのように球は投げられ、馬車の車輪は無情に回転していた。
瞬間、ガタガタと音を立て、マルキオンの言葉と共に静けさが破られた。
「悩んでる? 結構考えすぎだね」
「いいえ…違います…私が異端者になります」
アルベレットの言葉と共に、馬車の車輪は力を失ったようにゆっくりと転がっていった。
「うわ、本当に神父だな」
「本当に珍しいけど、本物は」
マルキオンの自嘲のない口調に、さらに絶望感を覚えた。
マルキオンは頷き、
異端審問官から自分の信念を認められたこの状況が、いかに二重的なものか気づいた。
馬車は依然として首都へ向かって進み、
アルベレットは神を選んだが、結果は人間を守る結果をもたらした。
人間によって神を捨てた者となった。
960年2月16日、同じ時刻、アストレルにあるカナトゥ族と隣接する村には、
17歳で同年代の友人たちとは少し異なる少年、ノバック・ケリ・アンがいた。
彼の家庭はかなり和やかな家庭だった。
ただし、その和やかさはノバックだけが知らなかった。
彼には他人と異なる点があった。感情がなかったのだ。
「ノバック!エリック!ユリ!入ってきてご飯を食べなさい!」
ノバックの母親リセタが彼と彼の兄弟たちを呼ぶ声に、
一斉に家のほうへ顔を向けた。
ノバックは双子の兄エリックと農作業をしていて、
彼らの妹ユリはその様子を見物していた。
「はい、すぐ行きます!ノバク、ユリ、まず家に戻ろう」
エリックは長男らしく弟たちを気遣い、ノバクは兄に従った。
ユリは既に先に家に向かって走っていた。
彼らは家に着き、エリックはすぐに母親のリセタを手伝って食事をテーブルに並べ始めた。
「ノバク、ユリ、二人とも手を洗って来い」
「うん、わかった。手洗おう、ユリ」
エリックの言葉にノバクはすぐにユリを気遣い、
食事が用意されると、彼らは囲んで食事を始め、会話を交わした。
「ノバク、食事を食べて兄と仕事をするなら、たくさん食べなきゃ。必ず兄の言うことをよく聞いて」
「村の人々の前では、言えないふりをして」
彼らには毎日同じような繰り返しの日常しかなかったが、
リセタは常に心配ばかりだった。
最近の噂やニュースは、何が起こっても良い方向にはならないだろうと、すでに予感していたようだった。
「お母さん、心配しないで。私がしっかり見守ります」
エリックがノバクに代わって答えた。ノバクも頷いた。
リセタは安堵と共に、依然として消えない不安感は変わらなかった。
「ノバック、良いことと悪いことを区別する方法は?」
「口角が上がれば嬉しいこと、物を叩いたり殴ったりすれば怒っていること」
「嬉しいことは良いことで、怒っていることは悪いこと」
「トウモロコシが枯れれば食べられないから悪いこと、トウモロコシが育てば食べられるから良いこと」
単純だった。
彼の基準は曖昧で不明確なものではなく、むしろ明確だった。
五感が基準となり、感情を判断する一つの公式のようだった。
ノバクにとって感情は形式的なもののように見えた。
良いものと悪いものを区別する一つの公式のように、
自分の意志ではなく、他者から習得した結果に過ぎなかった。
「そうだな…できるだけ気を配らなきゃ。ノバク、他の人とは絶対に話さないように…」
ノバクは再び頷いた。
心配そうな食事が終わると、ノバクとエリックは畑仕事に向かい、
ユリとリセタは二人の後ろ姿を見送った。
二人は再び畑仕事を始め、村人の視線を意識しながら、エリックだけが話した。
「ノバク、少しペースを上げよう。今日は早く終わらせて休もう。外にいるのは無駄だ」
ノバクはエリックの言葉に周囲を見回し、頷いた。
日が沈む頃、二人が家に入ると、既に父親のカレブが帰って待っていた。
リセタは何か顔色が良くなかった。
「ノバック、エリック、二人とも来て座りなさい」
エリックは少し重い雰囲気に戸惑いながらも、やがて座った。
「何かあったの…?」
エリックの質問に、彼の父親はため息をつきながら口を開いた。
「明日からは二人とも外に出るな。家にいて、村人が家に来ても、まずドアを開けないで、まずネズミが死んだように静かにしていなさい。ノバック、わかったか?」
「なぜですか?悪いことですか?」
「そう、良い状況ではないようだ。エリック、弟たちをしっかり面倒見なさい。双子でもお前が兄だから」
ノバクは父親に尋ね、すぐに頷いた。
エリックは状況をある程度察し、これ以上尋ねなかった。
噂は噂を呼び、教皇庁の偽りの扇動が始まった。
扇動は国境を越えて疫病のように広がっていった。
960年2月22日、村の雰囲気は変わった。
静かだった村の静けさは、今では冷たい視線と混ざり合っていた。
時には過剰な親切も見られ、互いに互いを監視するように目を交わした。
ノヴァクの家の交流を完全に避けるのは難しく、
村の住民たちも悪魔への恐怖から、軽率に動くことはできなかった。
自分たちと少し違うだけで、それが悪魔だった。
「今夜逃げよう。もうここに長くいる必要はない」
ノバクの家の食事中、カルレブの断固とした決断に静けさが漂った。
まるで何かに追われるような感じだった。すぐにノバクのリーセタが口を開いた。
「それが…いいかもしれません…最近、住民たちの目も…そうだし…あまりにも頻繁に家に来るから…」
「では……どこへ……?」
エリックは父親に尋ねた。
「カナトゥ族の平原へ行こう。そこならまだ……」
カルレプの答えに皆が頷いた。
自然や平原なら、現在の状況よりはましだと考えた。
ノバクは自分のせいで逃げなければならないことを知っていたが、
申し訳なさや罪悪感のようなものは感じていなかった。
ただ、状況が良くない、悪いだけだと理解していた。
「まず荷物を最小限にまとめて、日が沈み始めたら後ろの山に立って待とう。私は馬車を用意して先に待つから」
ノバクは静かに頷き、
母親とエリックは慌ただしく動き始めた。
すぐにアカルレプはドアを開けて外へ出て、足音を立てながら移動した。
「ノバック、ユリを少しだけ運んでくれ。上の階に上がっていれば、近辺は終わるだろう」
ノバックは邪魔にならないようにユリを抱えて上の階へ向かい、
まだ寒い2月だったので、ユリの服を着せてあげ始めた。
リセタとエリックは金銭と衣類を適度に荷造りし、一か所にまとめておいた。
そのような慌ただしい変化は、誰かの視線に捉えられるのがあまりにも容易だった。
エリックは荷物を運んでいる最中、窓の外に村人が近づいてくるのが目に入った。
よく交流していたおばさんだったが、今は最も避けたい人物だった。
「ノバック、降りてくるな。ユリと待ってろ!」
エリックが上階に向かって言うと、リセタは戸惑いがよぎったが、
理由を尋ねる前に、ドアにノックの音が聞こえた。
「何の用ですか…?カモディさん…?」
リセタがドアを開けると、カモディという女性が食べ物を持って立っていた。
エリックの目には、その食べ物は好意ではなく、ここに来るための最低限の口実に見えた。
カモディもまた、彼らから口実を探していた。
「食事を少し分けてあげようと思って来たのよ~」
「あ…はい、ありがとう…」
リセタは食事を素早く受け取り、ドアを閉めようとドアノブを握った瞬間、
再びカモディが話しかけてきた。エリックは後ろに立って状況を観察していた。
「どこに行くの?荷物をこんなにまとめて」
「あ…荷物…」
一か所にまとめていた荷物を隠す暇がなく、
リセタはすぐに気を引き締めた。
「旅行に行くんです…家族旅行…」
「ああ~そうか、ノバクか?エリックか?」
カモディ夫人はエリックを見つめながら言った。
一瞬の静けさが訪れ、エリックの表情は固まった。
カモディ夫人が自分とノバックの外見の違いに気づいていないことを悟ったが、
それが良いとも悪いとも感じられなかった。
この皮肉な状況に、エリックは一瞬、ノバックの世界を感じた。
エリックは自分がなるべきか、ノバックになるべきか決めなければならなかった。
カモディもまた、この家にいる少年が悪魔かどうか判断しなければならなかった。
「あの… 私たちは旅行の準備で忙しくて… これで…」
「話さないのか、ノバック?」
エリックは口を開くことができなかった。
肯定も否定も、何もできなかった。
その時、エリックは気づいた。
今、彼らは口実でも何でもない、以前から他人と少し違っていたノバクを探しているのだと。
その違いが口実であり、自分たちの合理化のための手段だったのだ。
やがてエリックはゆっくりと頷いた。