第30話 「謎の料理人と豚の悲鳴」
モンスター料理大会がついに始まった。会場は町にある巨大な競技場を改装した特設会場で、観客席には料理人、貴族、一般市民がぎっしりと詰めかけていた。
「第一回戦、グレース対サトーシ!」
司会の魔法使いが観客へ向けて声を張り上げる。
「第一回戦の課題料理は――カツ丼!」
観客席から歓声が上がる。庶民にも愛される料理でありながら、シンプルな分、素材や技術の差が出る一品だ。
グレースは少し緊張した面持ちで調理台の前に立っていた。
「三好、食材の調達は任せたから……私、どんなカツ丼にするか家で考えてるね」
「ああ、こっちは任せとけ。絶対に最高の豚を見つけてくるからよ」
三好はそう言い残し、カオルと共に食材探しへと向かった。
町の郊外にはいくつかの養豚場があったが、その中でも特に評判の良い養豚場「サディスティック・ミート」に足を踏み入れた。
そこでは、一人の妙に妖艶な女性が待ち構えていた。
「いらっしゃいませぇ……お客様は、特別な豚をお探しですか?」
彼女は全身ピッチリとした黒い革の服を着ており、手には長い鞭を持っていた。
「……あの、ここ、普通の養豚場ですよね?」
三好は一瞬、自分がとんでもない場所に迷い込んだのではないかと不安になったが、奥に目を向けると確かに豚が飼育されている。しかし、その豚たちはどこか違和感のある様子だった。
彼女は妖しく微笑みながら説明を始めた。
「当養豚場の豚たちは特別な調教を受けていますの。鞭で打たれると、最高に引き締まった肉質になり、脂の乗り方が絶妙になるのですよ……ほら、試してみます?」
彼女が手にした鞭をふるうと、一匹の豚が「ブヒィィィィィィィンッ!!」と、妙に色っぽい鳴き声を上げた。
「……」
三好とカオルは無言で顔を見合わせた。
「この豚は特に高品質なもので、お値段は張りますが、その価値は十分にありますわ」
「いや、まぁ……うん、これでいいか……?」
何かが引っかかる気もしたが、今は食材の質が最優先だ。三好は豚を購入し、養豚場を後にした。
そして迎えた第一回戦。
グレースはすでに決意を固めていた。
「最高の豚肉を使うなら、普通のカツ丼じゃもったいない……私は、トリュフソースを使った特製カツ丼で勝負する!」
調理が始まると、グレースは鮮やかな手さばきで豚肉をカットし、絶妙な温度で揚げていく。油の中でサクサクと音を立てるカツは、すでに見るからに美味しそうだった。
そして、特製のトリュフソースを使った特別なタレをかけることで、芳醇な香りが広がった。
一方、対戦相手のサトーシはオーソドックスなカツ丼を作っていた。彼の料理もレベルは高かったが、やや平凡だった。
いざ試食の時間。
審査員の一人がグレースのカツ丼を口に運んだ瞬間――
「う、うまい!!!」
その瞬間、審査員の一人が感動のあまり涙を流しながら、テーブルに突っ伏した。
「このカツ丼、もはや芸術……!」
他の審査員も次々とカツ丼を口に運び、全員が満場一致でグレースを勝者とした。
「勝者、グレース・ルークス!」
観客席から歓声が上がる。グレースはほっと胸をなでおろし、安堵の笑みを浮かべた。
その後、三好は他の試合も見て回っていた。
ある試合に目を向けると、黒いフードをかぶった謎の料理人が戦っていた。
「……なんか、あいつ気になるな」
対戦相手の料理を食べた審査員たちは、次々と服を脱ぎ始めた。
「え?」
三好は思わず目をこする。
「おいおい、なんで審査員が全員裸になってんだ……?」
審査員の一人は叫んだ。
「う、うますぎる……! 服を着ていられないッ!」
観客席は騒然となるが、黒フードの料理人は何も言わず、静かに立ち去っていった。
三好はゴクリと喉を鳴らした。
「……あいつ、何者だ?」
料理大会は波乱の幕開けを迎えつつあった。




