第3話:魔物を喰らい、狩人としての第一歩
狩りを始めて数日が経った。最初は村人と一緒に動物を狩るだけだったが、徐々に俺も狩りのコツを掴んできた。
「おい、新入り! そろそろ魔物狩りに挑戦してみるか?」
そう声をかけてきたのは、村の狩人の一人、ガルスだった。年のころは三十前後、がっしりした体格に無精ひげが特徴の男だ。
「魔物狩りか……。俺、一応ツノウサギは倒したけど、魔物はまだやったことないな」
「まぁ、そこまで強い魔物じゃねぇさ。せいぜいゴブリンかホブスライムってとこだ」
ゴブリンといえば、異世界では最弱の部類とされる魔物だ。
スライムもまた、雑魚中の雑魚と言われる存在。
「それなら俺でもいけそうな気がする!」
「よし、じゃあ早速森に行くぞ」
村の外れに広がる森に足を踏み入れる。ここは低級魔物が生息するエリアらしく、村の狩人たちもよく魔物を狩りにくるらしい。
「おっ、いたぞ。ゴブリンだ」
ガルスが指差す方向を見ると、木陰に身を潜める小柄な人型の魔物がいた。
緑色の肌に細身の体、手には木の棍棒を握っている。
「よし……やるか!」
俺は槍を構え、ゴブリンに向かって突進した。
「オラァ!」
勢いよく槍を振り下ろす。ゴブリンは驚いて回避しようとするが、まだ俺の攻撃範囲にいる。
「せぇーのっ!」
連続で槍を突き出す。先端がゴブリンの脇腹に突き刺さり、魔物は短い悲鳴を上げて倒れた。
「やった……!」
「ほぉ、なかなかやるじゃねぇか」
ガルスが満足げに頷く。
「さて、次はこいつを食うんだな」
「……え?」
「お前、暴食のスキル持ってんだろ? 魔物の力を取り込めるなら、試してみたらどうだ?」
……そうだった。
俺のスキルは「食べたものの力を取り込む」。つまり、このゴブリンを食えば何かしらの力を得られるかもしれない。
「……いや、ゴブリンって食えるのか?」
「まぁ、味は保証しねぇがな」
ガルスは笑いながらゴブリンの肉を切り取った。
「焼けば多少はマシになるだろ」
焚き火を起こし、ゴブリンの肉を串に刺して炙る。
「……うわ、臭っ!」
独特な獣臭が鼻を突いた。正直、あまり食欲をそそる匂いじゃない。
「うげぇ……でも、これを食えば強くなるかもしれないんだよな……」
覚悟を決め、一口かじる。
「……ぅ……くっ……」
硬い。臭い。苦い。
だが、飲み込んだ瞬間、体にじんわりとした力が湧いてくる感覚がした。
「お、おおお……!」
「お、どうだ?」
「なんか、体が軽くなった気がする……!」
ゴブリンの肉を食べたことで、俺の体は確かに少し強くなった。
筋力が微増し、動きが軽くなった気がする。
「よし、もう一匹狩るぞ!」
俺は興奮し、次の魔物を探した。
それから数日間、俺はひたすら魔物を狩って食べ続けた。
ゴブリンの肉を食えば、少しだけ力が増し、ホブスライムを食えば身体が弾力性を持ち、森グモの肉を食えば反射神経が向上する。
最初は気持ち悪かったが、だんだんと慣れてきた。
魔物の肉も調理方法を工夫すれば、そこそこ食えるものもある。
そして、一週間後——
「よし……俺、一人でも魔物を狩れるようになったぞ!」
これまで村の狩人たちと一緒に狩りをしていた俺だが、ついに単独で魔物を狩れる程度には強くなった。
「へへっ、これならもう食うのに困らねぇ!」
食べて強くなる俺のスキル。これを活かせば、この異世界でも楽に生きていけるかもしれない。
こうして俺は、一人前の狩人としての第一歩を踏み出したのだった。