第15話「幽霊メイドの懇願」
屋敷の前で、三好たちは息を整えながら状況を整理していた。
「……まさか、本当に幽霊が出るとはな」
三好は額の汗を拭いながら、幽霊と遭遇したときの光景を思い返していた。
「私、幽霊とかマジで苦手なんだ……」
カオルが顔を引きつらせながら言った。
「お前がそんなこと言うとは意外だな」
「剣や魔法で倒せる敵ならいくらでも戦えるけど、ああいうのはどうすればいいか分からない……」
カオルは腕を組みながら肩をすくめる。
「仕方ないな……なら、マリア。お前の聖なる魔法で何とかできないか?」
「えっ、わたし!?」
マリアは驚いた顔をしながら指をさす。
「そうだ。お前、聖なる魔法を使えるだろ?」
「うーん……当たれば何とかなると思うけど……」
マリアは少し不安そうな顔をした。
「じゃあ試してみるしかないな」
三好は再び屋敷の扉を押し開けた。
ギィィ……
中を覗くと、そこにはまだメイド姿の幽霊が浮かんでいた。
「まだいるな……よし、マリア。やっちまえ!」
「い、いくよ……!」
マリアは手を構え、聖なる光を放つ。
「セイクリッド・ライト!」
シュンッ
聖なる光が幽霊へと飛んでいくが――
スカッ
光は幽霊の体の横をすり抜け、まるで何もなかったかのように消えた。
「えっ!? 当たらない!?」
「……何発か試せ!」
「う、うん! せいっ! せいっ!」
マリアは連続で聖なる光を放つが、どれも幽霊には一切当たらない。
「だめだ……やっぱり当たらない……」
「くそ……じゃあ、カオルのウォーハンマーに聖なる力を宿すことはできないのか?」
「付与魔法は……まだ出来ないの……」
マリアが申し訳なさそうに答えた。
「聖水は持ってるか?」
「持ってない……」
三好は頭を抱えた。
(くそ……どうする……?)
すると、マリアが三好の手に持っていたほうきを見て、突然「はっ!」と閃いた顔をした。
「ちょっと、そのほうき貸して!」
「……? いいけど?」
マリアはほうきを受け取ると、「ちょっと待ってて!」と言って、屋敷を飛び出した。
聖なるほうきの誕生
しばらくして、マリアは戻ってきた。
「はい! これで大丈夫!」
「何をしたんだ?」
三好がほうきを受け取ると、毛先がしっとりと濡れていた。
「聖水をかけてきたの!」
マリアは胸を張って言った。
「なるほど……これならいけるか?」
三好はほうきを構え、幽霊へと恐る恐る斬りかかった。
「ええいっ!」
スパッ
「……いたっ!」
幽霊が突然、痛そうな声を上げた。
すると、その体を覆っていた黒い霧がスゥッと消えていき、綺麗なメイド服を着た女性の姿がはっきりと見えるようになった。
「な、なんだ……?」
三好が驚いていると、幽霊――いや、元幽霊のメイドが慌てて手を合わせて懇願してきた。
「な、何でもするので、除霊しないでください!」
「は?」
「お、お、お助けください! わたし、生前の記憶がないのですが、この店でメイドや店員をしていたらしいのです!」
「いや、急にそんなこと言われても……」
「とにかく! もう怖がらせたりしませんから! お願いです! 一緒に住ませてください!」
三好は腕を組んで考え込んだ。
(幽霊が家にいるってのはどうなんだ? でも、もう普通に喋れてるし、特に害はなさそうだ……)
「……まあ、迷惑をかけないならいいか」
「ほ、本当ですか!?」
「ただし、ちゃんとルールは守れよ?」
「はい! ありがとうございます!」
こうして、幽霊メイドのクルミは三好たちと一緒に住むことになった。
ほうきの謎
後日、ギルドに報告し、正式に家を三好のものとした。
「いやー、破格の値段で家が手に入るなんてラッキーだな」
「本当にいいの? 幽霊付きの家だよ?」
カオルがまだ不安そうにしているが、三好は「まあ、大丈夫だろ」と軽く流した。
しかし、三好には一つだけ気になることがあった。
(そういえば……なんでほうきだけが幽霊に効いたんだ?)
ふと、ほうきの毛先を嗅いでみると――
ツン……
「……ん? なんか、これ、アンモニア臭がしないか?」
「え?」
マリアが視線をそらす。
「まさかとは思うが……お前、本当に聖水をかけたのか?」
「え、えっと……」
「まさか、小便をかけたんじゃないだろうな?」
「…………」
マリアはそっぽを向いた。
「お前……!!!」
三好は呆れながら、マリアの頬を容赦なくつねった。
「痛い痛い! ごめんなさい! でも効いたからいいでしょ!?」
「ふざけるな!」
こうして、三好は思わぬ形で幽霊屋敷の謎を解決し、破格の家を手に入れたのだった。




