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9.生きてるんだな

「さくら先生!もう一回!」

「ち、ちょっとタイム!」

「たいむってなに?」

「休憩させてって意味よ」


 若返ったとはいえ、ずっと走り回るのはきつい。


「おーい!夕食の準備するから手をよく洗って集まって〜」

「もう少し遊びたかったなぁ」

「でも、ランカねぇは怒ると怖いし」


 子供達は、ランカさんの呼ぶ声にブツブツと文句を言いながらも家へと戻っていく。私もと後に続こうとしたら、肩に誰かの手が置かれて驚き振り向けば、元西の魔法使いさんだった。


 こんな至近距離にいたの?全く気づかなかったわ。


「アンタは休んどけ。あいつらの相手、結構疲れるだろ?ほら、これでも齧っとけ」

「え、あっ、ありがとうございます」


 投げられた物をなんとかキャッチしたソレは、林檎を少し小さくしたような果実だった。行儀が悪いけれど、それを服で擦り齧る。


カシュ


 厚めの皮に歯を立てれば、なんか爽やかな音が勝手に出た。


「濃い味だなぁ。しかし確かに限界かも」


 虫がいるかもしれないけれど、この辺りに毒を持っ昆虫はいないと聞いていたので遠慮なく草むらに転がった。


 口のなかに広がる甘酸っぱさ。鼻からは草木と土の匂い。耳は、葉のこすれる音と遠くでは子供達の声が微かに聞こえてくる。


なんだろう。


「すっごく平和」


 そういえば、この世界に来る前は動けるうちにと最低限の処理の為、病気の体で重い足で動きまわり、寝たきりになって数日で私の人生は終わったのよね。


「まぁ、親も看取り済みだったし」


 心残りは少ないにこしたことはない。


「この世界に来てからも、なんだかんだで忙しなかったからなぁ」


 何故か、何かしなくてはと自分で忙しくしていたのかもしれない。


「何故、私が二回目の人生なのかしら?」


いや、違うか。


「意味なんてないのかもしれ」

「随分と小難しい事を考えているんだな」


 逆さまに見えた彼は、いつの間にか戻ってきたようで寝転んだ私の隣にドカリと腰を下ろした。


「えっと元西の」

「プロムだ」


 厳つい体型なのに、随分と可愛らしい名前である。


「似合わねぇと思ったんだろ?親父が産まれたら女に違いないとソレ一択だったらしくてな。ほら、丁度あそこに咲いている花がプロムだ」


 指さした先は、大木の下に群生している青みを帯びた百合に似た花。


「合ってると思いますよ。強い風にも折れず靭やかな茎といい、綺麗な花ですね」


 隣で身動ぐ気配がしたついでに私も体を起こし、その髭に隠されている実は端正な顔であろう横顔をちらりと見上げ尋ねた。


「私の品定めは終わりましたか?いえ、決まりましたか?」


 正確には私を排除、最悪存在そのものを消すという判断だろうか。


「良くわかっているじゃないか」


 灰色の瞳が、私を刺すような視線で捉えていく。西の塔で初めて目が合った時と同じだ。


ひたすら暗く重い。


「彼奴等、苦労しているもんでね」


 私が、彼らにとって害になるかを判断するた為に、わざわざ首都と離れているであろう孤児院に連れてきたというのは理解できない。


 挙げるとしたら単純に二人から引き離したい。あとは、山間にあるようだし消してしまうのには処理場所として問題ないとか。


「私は、確かにこの世界の人間ではないし怪しいでしょうね。ただ一つ言えるとすれば、私が邪魔な存在なのかはプロムさんが決める事ではないですよ」


決めるのは、彼らである。


「アンタ、頑固だって言われるだろう」


 ピリピリとした空気の中、どれくらい経過しただろうか。それは、彼の馬鹿にしたような口調で幕を閉じた。


「言われませんよ」


 陰ではどうか知らないけど。少なくとも仕事の際に人の意見には耳を傾けてきたし、面白みはなかったかもしれないが、頑なではなかったはず。


「脅すような事をしたのは、悪かった。あの商会の若造、ジェイ・ダイアンの父親が継承権を放棄しているとはいえ力がある奴と繋がっていると聞いて実際、目で見たかったもんでね」


王位継承権…父親?


「なんだ、知らなかったのか?アイツの父親は現国王の弟だ。まぁ、先の戦で既に戦死しているがな」


 苗字が違うし、そもそもジェイから一般常識を叩き込まれたのだ。


「……聞かなかった事にするわ」


 書籍から知る、また彼から話をされたならまだしもね。


「彼は、商会の責任者。それで充分だわ」


 頬を撫でる風が日が、傾いてきたと知らせるように涼しい風に変わってきた。


 食事の香りが流れきて、子供達の声が聞こえてくる。生きている生活の音だ。


「貴方の思惑はなんにせよ、連れてきてくれて、ありがとう。感謝します」


 痛みなく走り回れる軽い体に食べ物が美味しいと感じる舌。


幸せだな。


「そうか。いつでも来い。倒れるまで働けばいいさ」

「ほどほどで結構よ」


 私は、余力は残したいタイプである。


「アンタ、やっぱ変わってんな。ほら、ついてこい。転移場所に移動する」


 貴方に言われたくないとムッとしながらも大きな背中は最初より、なんだか親しみやすく見えたのは内緒である。




*〜*〜*


「ダイアン、相談があるんだけど」


それから約半年後。私は、未来屋の店を閉めて街から消えた。




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