8.始まりは、あのクジなのよ
「事の始まりは、ガラガラくじなのよ」
あの場所での長話は寒いしドレスは苦しいわで日を改めて話をしようとなり数日後の現在、私は、西の魔法使いの仕事場で珈琲とお菓子を片手に口を開いた。
「がらがらくじって? 一般人の中で流行っている遊び?グレイン、どんな感じ?」
「俺が知るか」
「市街地を管轄してるんでしょう?」
「……娯楽の流行りは知らない」
そう、会話でご理解頂けたかと思うけど今日の参加者は、魔法使いのリュシアンさんと騎士のグレインさんである。
しかし、そこから説明か。
「申し訳ないけれど、何か書くものはあるかしら?」
「これでいい?」
サッと目の前に用紙とペンが現れた。素晴らしい。
「こんな感じの木の箱に球が入っていて〜」
✻〜✻〜✻
「やっぱり、変な気配だと思ったのよぉ!私の勘は毎回当たってるわぁ〜」
「しかし、何故我が国なのだろうか。それに、やり直しならば赤子からではないのか?」
ドヤ顔の魔法使いとは対象的に顔を曇らせている隊長さんは、どうやらずっと色々と考えていてくれたらしい。
「そう言われてみれば、ある意味途中からの人生よね。私が、ずっと気になっていたのが二等賞が何なのか書かれていた文字が分からないのよ」
「小さな事を気にしても時間の無駄だ。しっかし、久しぶりに来てみればうるせぇなぁ」
ガチャン
誰かしらと思っている間に隊長さんが立ち上がり剣を抜く体制になっていたけれど、直ぐに手が下ろされた。
「貴方は、西の魔法使い」
「前のな。今はただのオジサンだ」
隅に置かれていたソファーから半身を起き上がらせた四十代に届くかくらいな男性、先代の西の魔法使いらしい彼は、背を丸め両腕を前に突き出し、まるで猫のように気持ちよさそうな伸びをした。
「師匠、いつの間に!」
「最初っから居たぜ?」
「結界?!」
どうやらリュシアンさんが招いたお客様でない事は驚きから察せられたけど、何をそんなに騒いでいるのかしら?
「んぁ、破った」
「いや、そうでしょうよ!でなければ師匠は今、いないですからね。問題はアタシが察知出来なかったのよ!この敷地と塔には強力な壁を、しかも最新のモノが張り巡らされているのにぃ!どういうことよぅ〜!!」
タシタシッ
地団駄をする人、初めて見たわ。
「あ〜、うるせー」
「なら教えて下さいよぅ」
「破って縫った」
「はぁ?」
リュシアンさんは、口が、パカンと開いている。もう何かしら、そう漫画のようだわ。
「破くはともかく縫うってどういう事よ?」
「結界なんて破ってすぐ元に戻せばバレねーよ」
コイツ、下らない事を聞くなと前任者の魔法使いは言っているけれど、それがどれだけ異常なモノかをリュシュアンさんの表情が物語っている。
「アンタ」
「さくらと申します」
アンタ呼ばわりは、好きではないので訂正したらスルーされた。
「違う仕事探してんなら来るか?」
違う仕事?
──ビュン
風と浮遊感、音はない。
「着いたぞ」
思わず閉じていた目を開くと、広々とした畑、さっきまでなかった風の音に。
「あ、おかえりなさーい!」
「ダン先生、早い〜」
レンガ造りの建物から、子供がワラワラと走りでてききた。
「あれ、この人は誰ー?」
その中の一人の女の子は、私を見て元西の魔法使いさんに尋ねた。
「お前達のメシを用意をしたり、相談にのってくれる先生」
彼は、私を見てニヤリと笑った。え、ご飯に先生?
「……え!?」
私が?!
「ウダウダ考えるから疲れんだよ。今更だが、今日の予定は?」
今日の予定。
「話をしに西の塔へ来たくらいですけど」
「明日は?」
「え、午後からお客様の予約が入っていいます」
ニンマリ
悪い笑いじゃないの。
「じゃ、決まりだな」
「何が決まったのー?」
「今日は、なんつったっけ?」
「……さくらですが」
私も、何を真面目に自己紹介してんのよ。
「じゃ、さくら先生とまずは昼飯でも作るか! ランカは来てんのか?」
「とっくにいるよ。じゃあ、サクラ先生、行こー!」
柔らかく小さな手が迷いなく私の右手を握る。
「あ、ズルい、私はこっちー!」
「遅くなっちゃうよ。行こう!」
「わ、ちょ」
何故か近くにいた、もう一人の女の子が私の左手を握って、二人とも私を引っ張るようにレンガの建物へと半ば強制的に連れて行かれた。