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2.私、小さな店をやるらしい

「はぁ」


 かれこれ体感で1時間が経過したくらいだろうか。私は、広場の噴水の縁に座り困りきっていた。


「あまり良く見えないけれど、これ若返っているわよね?」


 揺れる水に映る私の顔が明らかに違うし、触ればシワが消えていた。


「これから、どうしよう」


 今の私にあるのは若さと何故かガラガラクジで出てきた透明な玉だけ。


「そういえば、この玉、ビー玉サイズだったはずなのにおかしいわね」


 明らかに手のひらサイズになっているソレをなんとなく光に照らしてみるとキラキラと光る。


「綺麗ね。ん、何かしら?」


 ビー玉もどきにの中が動いた気がしたのだ。光のせいよね。


「え、何これ」


 目を細めないと見えないけど、そこには、私と知らない若い男が話をしている。


「失礼、お嬢さん」


 もっとよく見たくて更にじっと見ていたら、不意の影と共に声を掛けられた。


 お嬢さんって私なのかしら。キョロキョロと見渡すも周囲には私しかいない。


「あっ」


 改めて声の主を見上げれば、今まさにビー玉もどきに映っていた男が立っていた。



✻〜✻〜✻



「本当に上手くいくかしら」

「俺の勘では間違いない」


 苦しみから解放された日に、くじ引きのせいで良く分からない世界に来てしまい、途方に暮れた私に助け舟をだしてくれた、ダイアン商会のトップ、ジェイ・ダイアンは自信しかないという顔である。


「あ、これ強い防御かけてあるから滅多に壊れないとは思うが、破損したら客に必ず払わせろよ。あと、今後の為にも顔は隠したほうがいいな」


 赤い髪の茶色い目をした、二十代前半とまだ年若いはずのジェイは、気配りや手配も余念がない。


「そうね。確かに因縁とか逆恨みされたら怖すぎる」


痛いのも怖いのも遠慮したいわ。


「まぁ、上はウチの奴が運営している店だし、なんかあったら直ぐに知らせろ」

「わかったわ。なにかなら何までありがとう」

「ふん」


 お礼を伝えると、照れくさそうにする姿にスレていない所もあって若いって良いわねと思うさくらだった。




「鍵を開けて、ポットを用意して。よし」


 ジェイが去った後、私は開店準備を終えてゆっくりと椅子にこしかけた。


「まさか私がお店を出すなんてね。しかも占い相談室とは」


 六畳程の部屋の中央には防弾ガラス、もとい刃物や魔法攻撃に対しての防御を施されたガラスを1枚隔て私とお客様の椅子が設置されている。


まぁ、いかにも怪しげである。


シャラン


 閑古鳥に決まっていると思っていた私は、紅茶でも飲もうとカップに口をつけた時、軽やかなドアベルと共に初めてのお客様が現れた。


「いらっしゃいませ」

「悪いが、ダイアン商会に関係している者が店を出すと聞いて寄っただけだ」


 初めてとお客様は、どうやら客ではなくこの周辺を管轄している騎士らしい。


 この世界に来て約十日間が経過していた。ジェイに生活するための基本知識を叩き込まれたが、実は今日に至るまで彼以外とあまり接触がなかった。


 騎士ってキリッとしちゃって凛々しいわねぇ。そして、少し怖いかも。藍色に銀色の刺繍がされている制服を着た男性は、歳は二十後半くらいかしら。短髪の髪は銀色でくっきりとした目は青。キンっと冷えた冬の日の色だわ。


「そうですか。もし、よろしければお座り下さい」

「ああ。この仕切りは?防御が組み込まれている。凄いな…」


 コンッと軽く叩いて驚いた表情は、一瞬だけど幼く見えた。それにしても触るだけで分かるの?私にはただの分厚いアクリル板にしか見えないのだけど。


 興味津々でアクリル板もどきを眺めている姿を見ている私も暇なので、彼にビー玉をそっと向けてみた。


これは、伝えるべきよね。


「あの、今日どなたかに手土産をお持ちの際にはジュエ菓子店ではなくミレー店の花の形をした焼き菓子が良いようです」


ギロッ


ひえっ


「あ、あの勝手にお伝えしたのでお代はいりません。その…顔が怖い」


 あ、つい口から出てしまった。だって本当にツララが刺さりそうなくらい睨むんだもの。


「はぁ…この顔は生まれつきだ」


 いや、違うから。顔は整っているのよ。肝心なのは表情だから!


シャラン


「隊長!東3番通りで強盗です!」

「…また来る。詳細を」


 ドアが乱暴に開かれ同じ様な制服を着た騎士が飛び込んできた。どうやら近くで強盗事件があったらしい。強盗された方には申し訳ないが助かったわ。


「ありがとうございました!」


 風のように去っていった彼らに向かって、律儀に挨拶をするさくらであった。


 とりあえず暫くは来ないだろうと思っていたのに数日後に再び客として彼が現れる事をまださくらは知る由もなかった。






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