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やり直す

「やあ、いい夜でしたね~」


 音とともに、それが現れた。

 まるで何か透明な空間から飛び出してきたかのように、私の前に一人で立っていた。

 アニメキャラのように登場するが、まるで宇宙服のような機械仕掛けのスーツと薄緑色の肌が、目の前の人物の異常さを物語っている。


「やあやあ、聞こえますか?おかしいな、今話しているのはこの時代の日本語に間違いないはずです……間違っているの?それにあなたの怪我を治したはずなんですよ」


 宇宙人さん(?)は私に手を振って近づいた。その時になって初めて、体の痛みもなくなり、傷もなくなっていることに気づいた。


「えっ、傷が消えた……」

「ええ、治してあげました。さっきもう少し遅くなったら、あなたは死んでしまいますよ!」

「……あの、治していただいてありがとうございます」


 私は宇宙人さんを遠ざけながら、お礼を言った。


「ホホホ、どういたしまして、自分がそうしたいから、そうしてるだけですよ!それに今の話を聞いた以上、このまま放っておくわけにはいきませんな!」

「今の話……?」

「ええ、もう一度過去に戻りたいって言ってたじゃないの。その願いを聞いて、あなたが過去に戻るのを手伝いに来ました!」


 今、そんなこと言ったっけ?意識がもうろうとしていてよく覚えていないが………。


「過去に戻るって、どういうことですか?」

「文字通りです。ホホ、私の名前はビーター、未来から来た悪魔です。私はあなたを過去に戻って、恋を叶えてあげます!!」


 ふふ、素敵な名前でしょう、勉強したことがあります、この時代で一番素敵な名前ですよね、とビーターさんは両手を腰に当てて、ふふと笑った。

 だけどその微妙な名前がどうなっているのかは気にしないで、言っていることに注意を向けた。

 未来から来て、過去に戻って、恋を叶えてくれる悪魔って、なんだか……怪しい。

 どう考えても詐欺のような話。もし相手が私がだまされやすいように見えるからと言って私をだましてくれたら、考えが甘すぎる。

 私は騙しやすい女ではないよ。


「あの……恋に戻る手助けをしてくれるって、どうしてしてくれるんですか?」


 私はこの奇妙な人物から遠ざかろうとしながら、口を開く。

 あなたにとって何の得にもならないじゃないですか。そう言うとビーターさんは一歩前に出て、瞬時に前に来て、私の手を握りしめる。


「それは共感だからですよ。同じ女性として、そんなことを放っておくわけにはいきません!」

「女性……?」


 そういえば変な格好をしていたけど、確かに胸が膨らんでいた。


「でも仮にそうだとしても、あなたは人間じゃないでしょう。あなたは悪魔ですよね。どうして未来から来た悪魔が私を助けてくれるの?それにあなたは、私が想像していた悪魔とは少し違うし……」

「悪魔というのは種族の名前なんですよ。地球の悪魔とは違います。それに同じ種族じゃなくても、恋愛感情は同じです。だからこそあなたを応援するために、わざわざ未来からここに来たんですよ」


 そう言うと、ビーターさんは笑顔を見せた。


「うん……ありがとう。でも、そうすることで、未来は変わるのではないですか?これでいいですか?」

「いいですよ。未来に干渉することなく過去に影響を与えることができる機械がずっと前から開発されてきました。過去の人間の惨状を見かねて過去に戻るというのは、未来ではよくあることです。私も、あなたの情報があまりにも悲惨だったから、ここに来たのです」


 彼女の言っていることはよくわからないが、自信のある様子からすると、どうやら本当のようだ。

 つまり、恋に失敗した私があまりにも惨めだと思って、未来人が過去に戻って私の恋を叶えようとした……なんだか惨めそう。


「でも、やっぱりよくないですよね、自分のために歴史を変えるなんて、聞こえはいいけど、なんか怖い……」

「はあ!?別にいいじゃないですか!恋する女は何をしても許されるんですよ」


 断ろうとすると、ビーターさんは柳眉を逆立てて、怒ったような顔をした。


「恋の前では、世界を変えるのは些細なことでしかないんですよ。それとも、あの真宮と一緒にいたくないの?」


 いきなり健くんの名前が出てきて、胸がちくりと痛んだ。さっきの嫌な感じがまた出てきた。


「いたいですが……それは卑怯です……」

「卑怯でいいじゃ。このまま惨めな一人で生きていくんですか?それとも……」


 ──幸せになりたくないの?


「……!」

「覚悟はできているようですね。さあ、教えてください。あなたの決断は?」


 ビーターさんは私を見て愛想笑いをし、手のひらを差し出した。

 私は胸に当てていた手を伸ばし、彼女の手のひらにそっとのせた。


「私、好きな人と一緒にいたいんです──」


「私、健くんと一緒にいたい!」


「──わかりました」


 ビーターさんは満足そうにうなずき、私の手を摑むと、ぐいと後ろに押してくれた。


「では、いい旅をお祈りします──」

「え、あ!?」


 後ろに倒れたが、地面に転ばなかった。振り向くと、カラフルな裂け目が私の後ろに現れた。


「わあ! ! !」


 そのまま裂け目に落ちた。裂け目は狭いように見えるが、中に落ちてから内部の空間が広いことに気づいた。

 果てなく下に伸びるトンネルに入るように、私は落ち続けている。

 いろんなものが目の前に現れては消えていく。これがワームホールというものかもしれないだろう。

 このままでは本当に過去に戻れるかも!…………がその前。


「うええ……」


 吐きそう。

 長時間飽和した情報を浴びるとめまいがした。加えて踏ん張る場所もなく、胃の中のものが吐き出されそうになる。

 やだ、ワームホールの中で吐くなんて最悪、絶対にこんなことにしちゃ──わあっ!


 突然、ドンと音がした。


「痛い!」


 背中に痛みを感じ、頭を押さえた。何が起こったのかわからないうちに、声がした。


「──純、起きてるの?」

「この声は、お母さん?」


 突然聞こえたお母さんの声に痛みも忘れ、まばたきをして自分のいる場所を確認した。

 今、部屋の床にいる。横にベッドがある。私がベッドから落ちた?


「どういうこと……」

「純、今日告白するって言ってたでしょ!」

「あ!」


 階下から聞こえてくるお母さんの声に咄嗟にカレンダーを見ると、そう、今日は健くんに告白する日。早く用意しないと!

 でも用意なって……これは起こったことがあったでしょう?

 告白に失敗したような記憶があって、その後、散々な目に遭う……それは予知夢か。


「純!」


 予知夢であろうとなかろうと、今迷っている場合ではない。すぐに準備を始め、制服を着た後、鏡の前に来た私は一瞬呆然とした。


「これは……私?」


 顔にしわはなく、髪が染め上げられて乾燥している様子もなく、何よりもお腹には傷がない。

 見慣れた姿なのに、なぜか懐かしい感じがする。


「うわあ、夢なのに、どうして泣きそうに、だめです!早く健くんのところへ行かないと!」


 私は慌てて家を飛び出し、健くんの家の前までやってきた。

 しばらくして玄関が開き、健くんが現れた。


「健くん、おはようございます!」

「おはよう」


 健くんはそばまで来ると、まっすぐに歩き出した。私は健くんの横について、その横顔をじっと見ていた。


「どうした?」

「なんでもないけど。やっぱり健くんはカッコいいなと思いました~」


 何回見ても健くんはやっぱりカッコいい。夢で見た青年健くんもカッコいい~

 ──え、私は今なんて言った。わああ!なんで私ついそんなこと言っちゃったよ!

 昔はそんなこと言えなかったのに、夢の影響かああ!


「あの、私……違います!?」


 頬が火が出るほど熱くなるのを感じる。何と言って埋め合わせをすればいいのかさっぱりわからない。でも私の取り乱した言葉に、健くんはうなずく、


「そうか、ありがとう」


 そして視線をそらした。

 ……これはセーフなの?び、びっくりした。

 やけにどきどきして心臓が飛び出して逃げそうになったと思った、あの夢のせいで。

 でも夢といえば、今日告白するということは、夢の中でもあったね。ただ夢の中の私は最後まで健くんのことが好きだとは言わなかったけど。

 現実の私にも、同じようなことが起こるの?

 いや、だめだ、そんなことがあっては!健くんと一緒にいたい!


「あの健くん、しばらくついてきてくれませんか」

「……いいけど、何かあったのか」

「ちょっとお話があるんです。ついてきてください──!」


 私は足早に健くんを近くの公園に連れて行った。

 よし、公園には誰もいなくて、告白するにはちょうどいい。

 予定とは違くなったが、今はそんなことは気にしない。夢の中のように後悔はしたくない!

 私は大きく息を吸って、健くんを振り返った。


「健くん、大事な話があるんです。ちょっと聞いてください」

「うん」


 健くんがこくりとうなずくと、やっぱりカッコいい!


「私は、健くんのことが好きです。健くんのことが大好きです。だから付き合ってください!!!!!!!!!」


 私は健くんに手を伸ばして頭を下げ、健くんの返事を待っている。

 ……言った!今まで言えなかったのに、これなら健くんにもきっと私の気持ちがわかってもらえるはず!

 一呼吸した後、前から健くんの声が聞こえた。


「そうか、でもお前のことが好きじゃないから付き合えないかも、ごめん」


 あ。


「遅刻するよ、他に何か言いたいことはない?ないなら早く行こう──」


 健くんはさっさと行ってしまった。

 公園内には私一人しか残って居なかった。


「ああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 失敗した!!!!!


 思わず、床に手をついて叫んでしまった。

 予知夢と同じよ!いや、好きって言い切ることに成功したけど、失敗しちゃったよ!!!

 これから私は予知夢のように寝取られて、惨めな人生を送ることになるでしょう!!そんなこと嫌だ!!!


「もう嫌だよ……」

「わあ、百聞は一見にしかず、さすが宇宙レベルの朴念仁ですね」

「誰……」


 顔を上げると、宇宙スーツを纏う緑色の肌の女性が横に立っていた。


「あ、夢に出てきたビーターさん……」

「ええ、私ですよ、みんなのビーターさんです~」


 ビーターさんはアイドルみたいなポーズをとっているが、今はそんな気になれない……。


「でもひどいわね。私は夢の役じゃないのよ。忘れたの?わざわざ未来から過去へ連れてってあげたのに」


 ああ、ビーターさんにそう言われて思い出した。健くんの家の前で彼女に過去に戻されたこと。

 ということは、やっぱりあれは予知夢じゃなくて、実際にあったことなんだな。


「すみません、ビーターさん、私はまた失敗しました。せっかく私を過去に送ってくれたのに……」

「何を言ってるんですか、それは失敗には遠く及ばないでしょう?」

「失敗には遠く?……でも、告白して失敗したんですよ?」

「失敗しても何の問題も無いです。あなたはまだ告白を続けることができます。あなたを好きでなかったら成功するまで彼を追いかけ続けてよ!」

「でも、迷惑じゃないですか……」

「別にいいじゃないですか!前に言ったこと忘れたの?真宮好きじゃないの?一緒にいたくないの?」

「いたい……健くんのことが好きなんです。一緒にいたいんです。おっしゃるとおりです……ありがとうございます。ビーターさん。このままではいられません。彼を口説くのです!」


 ビーターさんは私を目覚めさせた。このまま諦めるのはわがまますぎて、もう過去に戻る決心をした以上簡単に諦めてはいけない!


 ビーターさんは、満足そうにうなずいた。


「その覚悟はいいけど、急いでね、もうすぐ遅刻しますよ」

「え!?」

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